sleep

□本当は誰の視界にも入れたくないのですけどね
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「昨日利三様と出掛けたの」
「知っていますよ」
「とても楽しかったわ」
「それは良かったですね」

「……………」

光秀は相変わらず机に向かったままで、視線すらこちらに向けてくれない。
何かを考えては筆を進め、墨が織り成す字は私には意味が解らない。

「とても楽しかったの」
強調して言う。
「…先程も聞きましたよ」
さらりと流された。寂しい、と胸が泣く。

「楽しかっ「煩いですね」

言葉を全て言い終える前に、後頭部に手を添えられ押し倒された。私が頭をぶつけないように、といういつもの光秀の配慮。その代わり、光秀は肘で身体を支える事になるから、互いの距離が近くなる。因みに、普段顔の右半分を隠している柳のような前髪を耳に掛けておくのも配慮の一つである。一番最初に押し倒された時、思い切り髪が目に入って暫く目が開けられなかった苦い思い出があるからだ。

「貴女は何がしたいのですか」
無表情で問われる。
寂しいと泣いていた胸はいつの間にか煩く波打っていて。嗚呼、自分はなんて単純なのだろうかと、目の前の透き通る灰色の眼を見つめながら思った。

「…たまには嫉妬してよ
「………嫉妬…ですか……?」
訝しげに眉を顰めて光秀は聞き返した。それに対し真っ直ぐに見つめる視線で答えると、光秀は顔を逸らしてくつくつと笑い出す。全く訳が解らない。
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