sleep
□こんなにも近くにいるのに、貴方が遠い
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一緒に居る一時一時が幸せすぎて、別れの時までがもの凄く早く感じる。何で楽しい時や嬉しい時って、こんなにも過ぎるのが早いんだろうね。
ねぇバクラ。後何回こうして並ぶ事が出来るのかな。手を繋いだのは、何回目なんだろう。
あたしね、バクラに触れたまま時が止まってしまえばいいのにって何度も思ったよ。でもそんな事叶う筈もなくて。
あぁ、もうバイバイしなくちゃだね。このバイバイも後何回言えるのかな。後何回で終わっちゃうのかな。
まだ、この手は離さないでね。別れるギリギリまで、離さないで。
もしずっと離さないで欲しいって言ったら、どんな顔するのかな。迷惑そうに眉を蹙めるのかな。
それとも…?
あたしが歩を止めると、繋いでいた手が離れた。温もりを失った手が急速に冷えていく。
バクラは不思議そうにこちらを振り返った。
「…ねぇバクラ」
「あ?」
「今すぐ抱き締めて」
全身で貴方を感じたいの。貴方に包み込まれたいの。
彼は目を見開いた。それに対してあたしは、冗談っぽく笑んで見せる。だってここは公共の場。この人は、そういう事をこんなところでするのは好かない人。
「なんて…っ?!バ、バクラ?」
言葉を全部言い終わる前に、あたしは彼の胸の中に居た。
温かい、柔らかい香りのする、とても安心できる場所。
お互い無言で、あたしは恐る恐るバクラの細い腰に手を回した。
こんなにも好きなのに。
「バイバイは嫌だよ…。離れたく…ないよぉ…」
回した腕に力を込めた。こんなに近付いても、どんどん離れていく。
嗚呼、追うことは許されませんか。
(漏れた嗚咽、零れた涙)
メルト
(彼の腕の中は、溶けてしまいそうな程暖かかった)