jam
□もう一回お願いします
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たかたかと、軽い靴音が廊下にこだまする。
長い長い白の空間。
右手の壁にずらりと取り付けられた窓からは、惜しげなく日光が降り注いでいる。
「こんなこっといっいな、でっきたらいっいな〜」
お馴染みの青い猫型ロボットが出て来るアニメのテーマソングを口ずさむ。
歩調と全くテンポが合わないものだから、何だか別の曲に聞こえてしまう。
あたしが纏うのは紺色のスカート。
胸元には真っ赤なスカーフが巻かれていて、風に翻る半袖が何だか心もとない。
何を目指して走っているのだろう。
というか、いきなり「ここ」に来た気がする。
爆走しながらドラ●もんのテーマソングを歌うという、史上まれに見る奇妙な女(私ね)。
走り抜けた先に一際大きく光を取り込む四角があって。
勢いよくその窓を開け放ち、眼下に広がる景色に目をやる。
誰もいないグラウンド場。
暫くそこを眺めていると、見覚えのある黒が視界の端に揺れた。
「見っけ!」
と、同時に思い切り笑う私。
「私」の意志とはやや裏腹に動く体は、その瞬間窓枠に足をかけ。
「せんせ―――!!!!!」
「は…ってなァァァァ!!??」
目標物である“その人”に向かって、思い切りジャンプしたのだった――…
「…と、ゆーわけなんですよ副長!」
「…ほぉ」
で、ここは泣く子も黙る…といいますか。
寧ろ笑う子も泣き出す真選組屯所、の副長室。
「すげくね?夢にまで出演しましたよアンタ!」
「イヤ何がすげーんだかまるで分からねーから。
つーかアレか?そんなアホな夢のおかげで俺は寝起きのお前にタックルかまされた訳か?」
「イエスボス!」
そう、今までの長ったらしいアレは、全て私の夢だったのです。
巡察(と言う名の沖田隊長との死闘)を終えて疲弊しまくっていた私は、報告ついでに潜り込んだ副長室で惰眠を貪っていた。
それを発見した土方副長が、怒りの鉄拳で持って私を起こしに掛かろうとしたところ、それよりも早く起き抜けの私が彼にタックル(というかボディーブロー)をお見舞いしたらしい。
「流石は真船組期待のルーキーですね私!例え眠っていようとも、奇襲に備えられるこの反射神経!」
「誰が誉めるかァァァ!!!
つーかもうお前、どっから怒っていーのかわかんねーよもう!」
分からないと言いながらも、土方副長は見事な拳骨を私に投下した(イテーよチクショー)
「でもアレですよ、私かなり貴重な副長見ましたから!」
「あ?」
「夢の中で!
だって副長先生だったんですよ?眼鏡でした眼鏡!萌エ!」
「やめてくんない」
ああホントに惜しいことした。
どうしてあそこで起きたかな。
もう少しあの副長を見ていたかったのに。
「副長眼鏡かけませんか?何かデスクワークばっかで視力悪そーだし」
「生憎と俺ァ両目とも視力2.0だ。そんなモンはかけねー」
2.0ってどんだけだこの人。
アレか、マヨネーズには視力回復効果でもあんのか。
「ちぇー。じゃーいいですぅ。山崎か局長にかけてもらうもん眼鏡」
「何でその二人をセレクト?わけ分かんねーから!」
あー残念だ。
これ以上ここにいても怒られるばかりだと思った私は、早々に部屋を去ることにした。
「じゃーね副長。可愛い部下は仕事に戻りますよ」
「おー戻れ戻れ」
聞きましたかお母さん。
あの人あんなこと言いますよ。
もう私グレますからね、いいんですか。
「ふんっだ!副長のバーカ!
今日びの女の子は眼鏡かけときゃ一発なのに!」
「お前の趣向だろうがそれは」
「私だって普通の女の子ですー!!」
「あーもうハイハイ、いいから仕事戻れ」
きぃぃぃムカつくー!!
何が何でも眼鏡はかけてくれないらしい(そういう趣旨だっけ?)
もう知らない!と捨て台詞宜しくドアに手をかける。
「ホントに行っちゃいますよ!」
「だから行けっつってんだろーが」
「(酷い!)それじゃー失礼しました、
土 方 先 生 !」
「…は、」
もう一回お願いします
ヤバイ、グッと来た。
「仕事行けっつったのはどこの誰ですかー!!」
「いやいいよ行って。でもその前にさっきのもっかい言ってけ」
「はァァァ!?」
***
ヤバイこれ楽しい。
Gアリやめてこーゆうのやろうかな…
(080204)