jam

□重なる波の中空で
1ページ/2ページ



すこーん、と。
抜けるような空ってのは、きっとこういうのを言うんだろうなぁ。

そう言えばさっきから厨房からいい匂いがしてくるような。お腹空いたなあ。


ここ最近は大きな捕り物もなく、至って平和なこちら地球防衛軍本部。
…というのは明らかに分かるような真っ赤な嘘でありまして、別に何の変哲もない真選組屯所でございます。



「皆もさぁ、もっとデッカイことすればいいのに」



特別武装警察だなんてお題目担いでるくらいなんだから、超合金合体とかしてもいいと思う。ってかしてくんないかなマジで。

そんなアホみたいなことを考えながら、今日も今日とて縁側で空を仰ぐ。
まあ何を隠そうサボりなんですけれどもねコレ。

こんな天気のいい日に、室内で女中紛いの真似事なんてしてられないっての。



「女中紛いってか女中だろオメーはよ」

「…あ」



ぼけっと空を眺めていたら、背後から不穏な声が聞こえて来た。
振り返らなくても分かる。分かるけども振り返ってしまった、あああ私のお馬鹿さん。



「…防衛軍副長」

「誰が防衛軍だコラ」



目ェ覚ませ、と、上から逆光気味になって睨んでくるのは我らが副長こと土方十四郎さん。私の仕事先の上司だ。



「お前こんなとこで堂々とサボりぶっこいてんじゃねェよ」

「サボってなんかいません。現在危機に瀕している母なる地球の動向を見守っていたところであります」

「いい加減そのネタから離れろ」



そう言って副長は盛大に溜め息を吐く。
はあ、と声を伴って吐き出されたそれは、きっと私に対するものだけではなかったと思う。



「そう言えば沖田隊長が副長にこれを」

「あン?」

「幸せになるお守りだそうですよ」



それを見てふと、さっきまで眠そうに欠伸を漏らしていた人物を思い出した。
「しっかり渡せよ」といつになく爽やかに微笑みながら去って行ったその人の顔つきは、めちゃくちゃサボる気満々だった。



「…ってコレは」



私がそれをはいと手渡すと、副長の顔がみるみるうちに歪んで行く。
そりゃそうだ。この世界で誰が藁人形(使用済み)なんて渡されて喜ぶだろうか。



「土方さんの(不)幸せを心の底から願ってやすぜアッハッハ」

「てめェ殺されてーのか」

「馬鹿言わないで下さい。沖田隊長からの伝言です」



副長はぐしゃりとそれを握りつぶし、庭の隅っこに放り投げる。
へろへろと力なく飛んでいった藁人形さえも、副長を馬鹿にしている気がした。



「総悟はどこだ」

「うーん、どこでしょう」



どうやらこちらもやる気満々のようだ。
因みにそのやる気が、「殺る」にも「闘る」にも変換され得るだろうことは、気付かないふりをしておく。



「あ」

「あ?」



そうして訪れた暫しの沈黙。
いつの間にやら隣に座っていた副長が吐き出した紫煙(てかいつ煙草吸ったのこの人)が虚空に消える。それを視線で追っていたら、あるものが目の端に揺れた。



「副長、あれあれ!」

「今度は何だ。UFOでも落っこちたのか」

「んなもんそうそうある訳ないでしょうが馬鹿ですかアンタ」

「オイお前ちょっと表出ろ」



思い切り眉を顰めた副長を無視し、ポケットに突っ込まれていた左手側の袖を引っ張る。
それが強すぎたのか、副長は「おわっ」と小さく悲鳴を上げて僅かに私の方に倒れ込んだ。



「あ、危ねーだろーが!」

「うるさいですね耳元で叫ぶんじゃねー土方コノヤロー」



沖田隊長の真似をしたら、何でか拳骨が脳天に落ちた。
酷い。私これでも女の子なのに!



「んで何だよ」

「…何だっけ」



頭部がジンジンする。
ムカついたのでちょっと空っとぼけてみたら、副長の右手が再び拳を作り出したので素直に謝っておく。










次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ