HEAVEN!!
□月籠り
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高い天に、ちかちかと星が明滅する。
月明かりを楽しむ風流などは廃れ去り、今地上に降り注ぐのは専らネオンの光ばかり。
現時刻は、21時15分。
こんな時間になってまで――否、こんな時間だからこそ活気付く街、極楽天地“かぶき町”。
まさしくネオンに埋め尽くされた安っぽい風俗店がひしめく大通りを抜け、あたしは必死に走っていた。
「ちちち遅刻―――!!!」
偶に頂いた休みだと言うのに。
却ってそれが仇になったか。
呼び込みをする派手な女の人たちの間を潜り抜け、ひたすらに真っ直ぐ走った。
あたしが目指すのは、かぶき町の最も奥まった場所にある小さな花街。
かつては男達の聖域として崇め奉られていたその場所も、今では格式の高さや目を見張る価格のせいで、隅に追いやられるようになってしまった。
その代わりに発展したのが、キャバクラやらホストクラブと言った安値の風俗店。
花街もいいようにごっちゃにされがちではあるが、こっちにはそれなりの歴史と矜持があるのだ。
あたし個人として、この風潮は遺憾なのである。
「ってヤバっ!」
と、そんなことを離してる場合じゃなかった。
あたし程の年齢の者が夜中にこんな道を走っていると、やはりどうにも目に付くらしい。
声をかけられたらアウトだとは知っている。
そうなればあたしが辿る道は二つ。
良くて少年院、悪くてアコギな商売人の仲間入り。(カモとも言う)
しかしあたしとて数年この街に身を置いていた訳ではない。
難なくそれらの魔手をかわし、最短距離にあたる道を駆け抜け――…
「!!!!」
あと一歩、というところで思い切りブレーキをかけた。
急いで物陰に身を潜める。
抱えていた荷物がガサリと音を立てた。
「…最悪」
いつもならほとんどノーマークの裏路地。
だと言うのに、今日に限って見慣れた黒い服で埋め尽くされている。
「真選組め〜…」
泣く子も黙る、というか、寧ろ笑う子も泣かす悪鬼の巣窟こと武装警察真選組。
見た目はただのゴロツキだが、その権限たるやこの界隈じゃあ知らぬ者はいないと言うほどだ。
ここは風俗の街。
故に犯罪も普通に横行している。
それをどう掻い潜るかがここでの生き方の選択なのだが、如何せん、必ず引っかかる奴はいるものだ。(だからこそそういう人達が後を断たないんだけど)
そういった犯罪の蔓延を防ぐため、日夜お巡りさんは頑張っているらしい。
今日みたいな抜き打ち検問なんかがいい例だ。
「…はー…」
ふざけんなこの幕府の狗め。
あたしみたいな未成年者がこんなところにいるとバレたら、聞く耳も持たれずに手が後ろに回される。
アコギな商売どころじゃない。
下手したらデッドオアアライブを彷徨う事態だからね。
ただでさえ遅刻してるって言うのに、これ以上の恥をかかせないでもらいたい。
少し大回りになるが仕方ないか。
あたしは盛大な溜め息を零すと、進行方向からやや右手に外れた路地へと駆け込んだのだった。
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