HEAVEN!!

□月籠り
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数年のかぶき町住人歴と、人様よりも小柄(チビだとは決して認めない)な体躯が功を奏して、あたしはこの辺の地形、特に裏道に関しては特に詳しい。

以前知り合いに猫のようだと言われたことがあるが、あたしはどっちかって言うと犬気質だと思う。



「もー面倒だな」



脳内地図を引っ張り出し、網目のような裏路地を駆ける。
さっきの道よりは劣るが、このルートならばあと10分ほどで花街に入れるはず。

そう思い、一層足を加速させて続く角を曲がった、

――その時。



「…!」



ほとんど無意識。
そうしようと思ったつもりもないのに、何故だか足が止まってしまった。


鼻を突く、つんとした独特の臭い。

――これは、血だ。
それも人間の。



途端引き摺り起こされそうになった嫌な記憶に眩暈を覚える。

それを必死に振り払うと、気を取り直してあたしは目を眇めた。


路地の奥は確か行き止まり。
何か死闘でもあったかな。

場所柄だけに、そういったことは決して珍しくはない。
朝が来て日が差し込めば、そこら中にゴロツキが寝ていることだってある。

それを素知らぬ顔で横にほっぽるのが、この街での暗黙の了解。



「………」



耳をそばだててみる。
すると微かに呼気が聞き取れた。

ひゅうひゅう、と、今にも消えてしまいそうな音。



「!」



しかしそれに被さるように、もう一つ息を吐く音がした。



「(…誰かいる)」



誰かがいるのは分かっているけど、そういうことじゃなくて…ええと、そう。
下手人がまだ、その場にいるっていうことで。



「(…もしかして、とてもヤバめな現場に居合わせたのでは…)」



たらりと汗が背を伝うのが分かった。

すると、下手人と思しき男の呼吸が僅かに近くなった。
暗闇に鋭い光が浮かんでいる。

…こちらを向いているのか。
気付かれてしまったんだ。


ヤバイヤバイと心臓が跳ねるのに、足だけがどうしても動いてはくれない。
手に持った紙袋をぎゅうと握り締め、近付く気配に肩を縮こまらせた。



「………」



ザ、と。
短い足音を立てて気配が止まった。

足元だけ影から見えている。
あとは全てが闇の中。

だと言うのに、先ほど垣間見えた光だけは、そこにあってもギラギラと閃いている。



「……っ」



喰われる。
本能的にそう思った。

殺される、ではなく、食べられてしまうと。
それだけ、男の目は荒々しく野生的で、そして威圧と絶対感を孕んでいたのだ。





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