ソノホカ

□絶望と愛の狭間で
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 何かが変わってしまった後、全てが終わってしまった後に人は言う。

 こんなはずじゃなかった、と。

 それを後悔と呼ぶことができるなら、どんなに幸せなことか。

 血塊を削ぎとられる苦痛も、歪んだ劣情に煽られる恥辱も、廻らない刻の歯車にじわじわと絡め取られていく。

 ひび割れた外殻に打ち込まれた、悦楽という名の絶望か、それとも―。




 唐突に意識が覚醒した。

 重く圧し掛かるような暗闇の中で、乱れた呼吸だけがいやによく響く。

 次第に目が慣れてくると、手塚国光は見上げたそれが天井であることに気付いた。

 広いベッドに不自然な格好で横たわり、汗を含んで湿ったシーツがじっとり肌に張り付いて不愉快極まりない。

 随分と長い間眠っていたようだが、ここはどこだろう。

 ぼんやりと濁る思考を巡らせつつ、額に浮いた汗を拭う。

 同時に、じゃりっと鈍い金属音がした。

 ――…え?

 思う前に身体が動く。

 ぐっと身を起こしかけた途端、全身からきしんだ悲鳴が上がった。

「……くっ!」

 一瞬で神経を貫いた激痛が、冷えた指先までもを痺れさせる。

 皮膚に感じる表層的な痛みと、腹部を締め付ける鈍痛。
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