ソノホカ
□CROSS ROAD
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電光掲示板がぱっと閃いて、青色のランプを一つ増やした。
それまで緩やかに流れていた人の波がにわかにざわめき出す。
JAL195便・熊本行き、搭乗案内中――。
椅子に腰掛けていた乗客たちがぱらぱらと立ち上がり始めると、ようやく手塚は顔を上げた。
読みかけの文庫本を閉じ、少し大きめの鞄に手を伸ばす。
「……っ」
つい出しかけた利き腕にびりっと嫌な痛みが走った。
つめた息をゆっくりと吐き出し、替えた右手でチケットを探る。
慣れるものでもないが、この程度のことで一々眉を顰めてもいられなかった。
列をつくる乗客が次々と搭乗口に消えていく。鞄を抱え、人込みに紛れかけた、その時。
「おい、手塚」
不遜極まりない声に呼び止められた。
ちらりと肩越しに視線をやって、すたすたと歩き出す。
「っと待てコラ。シカトしてんじゃねーよ」
苛立ちを含んだトゲに突き刺され、手塚は陰で小さく溜息をついて足を止めた。
「何の用だ…、跡部」
振り返ると、偉そうに腕を組んだ男がニタリと笑った。
「見送りに来てやったんだよ。決まってんだろーが」
「……」
一瞬本気で無視してやろうとし掛け、仕方なしに素っ気なく礼を述べる。
「それは悪かったな。じゃ」
「おいおいおいおい、それだけかよ」