サンブン
□キズアト
1ページ/2ページ
ふうっと吐き出した煙が、胡乱な軌跡を描いて消えていく。
ゆらゆらと立ち昇る薄霞の向こうで、青空に浮かんだ白雲は身動ぎ一つしなかった。
音もなく、生き物の気配すらないこの空間にいると、まるで世界にたった一人取り残されたような気分になる。
「…なぁ〜んちゃって。穿ち過ぎましたかね」
むき出しの岩肌に身を預けて、ぼんやりと偽りの空を眺めながら、浦原は小さく笑った。
「ここにいらっしゃいましたか、店長」
おや、と声がした方へ首を傾げると、梯子を降りきったテッサイがこちらにやってくるのが見えた。
「店のほうで、なんかありましたか〜?」
間延びした声で問うと、いえ、と否定の言葉が返ってくる。
そうっスか、と浦原もそれしか答えない。
「………」
「………」
お互いにしばらく無言で佇んでいると、じっと空を見つめていたテッサイが、ふと何気ない口調で尋ねてきた。
「ここ、直さなくても宜しいのですか?」
浦原商店の地下に広がる巨大空洞。通称、『勉強部屋』。