サンブン

□キズアト
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 ふうっと吐き出した煙が、胡乱な軌跡を描いて消えていく。

 ゆらゆらと立ち昇る薄霞の向こうで、青空に浮かんだ白雲は身動ぎ一つしなかった。

 音もなく、生き物の気配すらないこの空間にいると、まるで世界にたった一人取り残されたような気分になる。

「…なぁ〜んちゃって。穿ち過ぎましたかね」

 むき出しの岩肌に身を預けて、ぼんやりと偽りの空を眺めながら、浦原は小さく笑った。

「ここにいらっしゃいましたか、店長」

 おや、と声がした方へ首を傾げると、梯子を降りきったテッサイがこちらにやってくるのが見えた。

「店のほうで、なんかありましたか〜?」

 間延びした声で問うと、いえ、と否定の言葉が返ってくる。

 そうっスか、と浦原もそれしか答えない。

「………」

「………」

 お互いにしばらく無言で佇んでいると、じっと空を見つめていたテッサイが、ふと何気ない口調で尋ねてきた。

「ここ、直さなくても宜しいのですか?」

 浦原商店の地下に広がる巨大空洞。通称、『勉強部屋』。
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