サンブン
□シンエン
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西日に陰った障子戸の向こうから、するりと肌に纏わりつくような気配を感じる。
夕影より暗く、眉月より鋭い。他者の心奥にじわりと忍び込み、爪先で細傷を抉るような感触。
初めは気になったそれも、慣れてしまえばどうということはない。今となっては、冷たい腕に抱かれるようなその霊圧の感覚に、心地好ささえ覚えるくらいだ。
「イーヅル」
かさりと地を踏む音に、イヅルが本を閉じるのが早いか、部屋の外からすらりと障子戸が開かれた。
慌てることもなく座布団を外し、姿勢を正して一礼する。
「このようなところへおいで頂くとは…市丸隊長」
「堅苦しいのはナシや。楽にし」
ひらひらと片手を振って見せながら、勝手知ったる我が家の如く、ギンが部屋へと上がり込む。
「これ、おみやげ」
と差し出されたのは、丸みを帯びた陶製の大瓶。どこからどう見ても、十中八九中身は酒だろう。
「有難う御座います。…ですが、お気持ちだけ頂いておきます。僕は謹慎中の身ですから」
「ただの自主謹慎、やろ。生真面目さんやからな〜イヅルは」
よいしょっと呟きながら、ギンが遠慮の欠片もなくイヅルの向かいに腰を下ろす。
それももう慣れたもので、イヅルは無言でもう一枚の座布団を勧めた。