サンブン

□アカシ
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 埃どころか塵一つ残っていない執務室に、ひたりひたりと足音だけが響く。

 幾日も人の手が入らなかったせいか、重く垂れ込めた空気はすっかり澱んでいた。

 空気を入れ替えようと窓を開きかけ、イヅルはつとその手を離した。

 そして、無意識の自分の行動に自嘲する。

「もう、何も残っていないのに…」

 窓を開けなければと思ったのは、いつもあの人が締めきった部屋の中にいたからだ。

 開けてはいけないと思ったのは、例え空気の欠片一つでも、あの人がいた証を逃したくなかったからだ。

「本当に…僕は…」

 最低だ、という言葉を飲み込んで、イヅルは執務机に向き直った。

 未処理の書類の束が、山のように積み重なっている。

 …そうだ。まずは、これを片付けなければならなかった。

 ばさり、ばさりと慣れた手つきで、分厚い書類の束を分類していく。

 椅子に座らず立ったままだから、逆に作業がはかどった。

 よく見れば、回覧用のものや提出期限が切れている書類がある。それに多くは、隊長の確認や印が必要なものばかりだ。

 さらに重要な書類の処理については、他隊隊長の指示を仰がねばならないだろう。
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