サンブン
□キキョウ
1ページ/3ページ
古びた木枠に手を掛けようとして、逡巡する。
ざらりと棘の立った引き戸は、手を触れただけで軋んだ音を立てるだろう。
感じるのではなく、耳に届く音は、否が応にも自分がここにいることを知らせてしまう。
…本当は、もう気付いているくせに。
気付かない振りを装って、待っているだけのくせに。
ちっ、と何となく舌打ちして、一護はわざとらしくガラガラと大きな音を立てて戸を滑らせた。
「こんばんは」
ついいつもの癖で、礼儀正しく挨拶してしまった。
はーい、とそれに答える声も、今までと何も変わらない。
「いらっしゃい、黒崎さん」
いつもの声で、いつもの格好で、奥から浦原が姿を現した。
一護が浦原商店に来た時は、必ず真っ先に浦原が応対する。
それが当たり前じゃないと知ったのは、ルキアの話を聞いてからだ。
けど、浦原は何も言わない。
だから、一護も何も言わない。
知っているけど、知らない。
二人の間には、そういうことが多いような気がした。
「どうしたんです、そんな入り口に突っ立ったままで」
挨拶を交わしたまま、じっと玄関に佇んでいると、ひょいと眉を上げた浦原が少しだけ身体を斜めに傾ける。
懐手に促がすようなその姿勢が、中へどうぞ、という合図だ。