サンブン

□キキョウ
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 古びた木枠に手を掛けようとして、逡巡する。

 ざらりと棘の立った引き戸は、手を触れただけで軋んだ音を立てるだろう。

 感じるのではなく、耳に届く音は、否が応にも自分がここにいることを知らせてしまう。

 …本当は、もう気付いているくせに。

 気付かない振りを装って、待っているだけのくせに。

 ちっ、と何となく舌打ちして、一護はわざとらしくガラガラと大きな音を立てて戸を滑らせた。

「こんばんは」

 ついいつもの癖で、礼儀正しく挨拶してしまった。

 はーい、とそれに答える声も、今までと何も変わらない。

「いらっしゃい、黒崎さん」

 いつもの声で、いつもの格好で、奥から浦原が姿を現した。

 一護が浦原商店に来た時は、必ず真っ先に浦原が応対する。

 それが当たり前じゃないと知ったのは、ルキアの話を聞いてからだ。

 けど、浦原は何も言わない。

 だから、一護も何も言わない。

 知っているけど、知らない。

 二人の間には、そういうことが多いような気がした。

「どうしたんです、そんな入り口に突っ立ったままで」

 挨拶を交わしたまま、じっと玄関に佇んでいると、ひょいと眉を上げた浦原が少しだけ身体を斜めに傾ける。

 懐手に促がすようなその姿勢が、中へどうぞ、という合図だ。
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