ソノホカ
□Holy arrow
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自分はつくづく真面目な人間だと思う。
寒さと人込みにこめかみを引きつらせながら、手塚国光はうんざりした眼差しで時計に目をやった。
滑らかなフェイスの上で、瑣砕な燐光がちらちらと躍っている。
駅前広場に飾られた巨大なクリスマスツリーは、今年一番のデートスポットだ。
北欧からわざわざ直輸入したとか言う大きな樅の木は、全身に青白色の電飾を絡め、抜けるように澄んだ光を纏って道行く人々の目を楽しませている。
手塚の隣で、待ち合わせをしていたらしい女の子が、白い手袋を大きく振った。少し上気した頬で、幸せに満ち溢れた瞳が見つめる先から、彼氏らしい男が小走りに駆け寄ってくる。
「ごめん、待った?」
「ううん、今来たとこ」
嘘をつけ、嘘を。
自分の見る限り、彼女は20分以上この寒空の下で凍えていたはずだった。…なのにどうだろう、寒さなど微塵も感じていなさそうな、このほがらかで温かな笑顔は。
幸せいっぱいの恋人たちとクリスマスツリーに背を向け、先刻から何度見たか分からない文字盤にじと目をそそぐ。
待ち合わせの時間は8時。なのに、時刻はもう8時半を指していた。
かじかんだ指先は感覚を失い、吐き出す息さえ既に白くなくなっている。
前々からいい加減な奴だと思ってはいたが、時間を指定した本人が遅刻するとは一体どういう了見なのだろう。