ソノホカ
□見えない鎖を絡めて
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規則的なリズムと、人にしては低い体温が心地良く肌に伝わってくる。
それよりも早く脈打つ鼓動がうるさくて、セナはじっと身体を硬くしていた。
…ヒル魔の、腕の中で。
「あ、あのヒル魔さんっ。僕もうこの辺で…」
「黙ってろ」
さっきから同じような問答を何十回繰り返しただろうか。
…だって、どう考えてもこれは有り得ない状況だと思う。
あのヒル魔さんが、セナを、お姫様抱っこしてるなんて。
「ぅぅぅ…」
きっかけは多分、どぶろく先生の一言だった。
ほんの数時間前、神龍寺と死闘を繰り広げた後。
脚の限界を超え動けなくなったセナは、
「今日はもう帰って休め。脚に負担かけねぇためにもな」
と声を掛けられた。
「あ、じゃあ俺セナのこと家まで送りますよ」
「えっ、大丈夫だよ、モン太だって疲れてるのに」
「心配すんなって、試合直後でまだ身体も固まってねぇし、お前一人抱えるくらい問題ないって!」
「モン太…」
疲れていないはずがないのに、優しいモン太の気持ちが嬉しくて、セナはくすぐったそうに笑った。
「ま、今日くらいは友情に甘えさせてもらえ、セナ」
「はい。…ありがとう、モン太。じゃあ肩だけ貸してもらえるかな?」