□退屈チューナー
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公園でトランクを開ける。


あ、また来てくれたんだ

貴方こそ

俺、すごくうれしいよ

私もですよ。



一番乗りのお客さんと少し会話をしながら開演準備。





月曜日にはおばあさんが来てくれる。日本に来てからすぐの常連さん。

水曜日には男の子が来てくれる。俺をなぜかヒーローと呼ぶ。

土曜日にはかわいらしい少女が来てくれる。


そして、日曜日にはこのスーツの男の人が来てくれるのだ。


……

「あの、これから何か予定あります?」

「っへ?」

思わず間抜けな声が出てしまった。

お客さんは俺の手を両手で優しく握った。

「お時間、あれば少しお茶しません?」

俺は困惑した。



確かにこれで公演は終了だけど、

だって今まで、
いいお天気ですね。とか

お歳は?とか

衣装自分で作ったの?とかそんなことばっかりだったのに。なんで。

俺はなんだか後ずさりをしてしまった。

「あのぅ、俺。メイクとか、衣装とか、このまんまで……、あ、あの、…だから、いやぁ、そのぉ……」

俺がヘラヘラ笑ってちらりと彼を見つめると、
「…トイレ行きたいんですか?」

「あ。うん、…」
聞き慣れないぴしぴしした声にちょっと怖じけづいた。



公園内の施設のトイレまで彼に引っ張られて、俺とトランクが連れ去られる。

「あ、ありがとうございますっ」
着替えが入ったトランクを受け取ろうとすると、俺の傘をとられ、トランクを渡された。


……捕虜か。





「あ、あのっ着替え、終わりましたっ」
「私服って言ってもあまり変わりませんね」

外で待っていた彼が俺を見てくすくす笑った。

「ははっ、もうー、ちょっと、お客さんだからって」
「すみません、なんだか貴方がいつも遠くに感じているのに、…それで、なんかうれしくって…」

俺はなんだか照れ臭い
「そ、そんな。…俺いつも暇っスよ、」
「そうですか?」

「うんうん、いつでも誘っていいんスよ。」

俺がウンウンと頷いていると彼が「では、さっそく」と俺を引っ張っていく。

なんだかちょっと強引な人だなぁと思った。
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