話
□作成中
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あの人はいつものように、『大道芸してくる』と言って出掛けた。かわいい化粧に衣装が人形のようだったのを覚えている。
僕は見送ることに特に抵抗はなかった。寂しさなんてものは多分慣れたもの。
だけど、扉の閉まる音が、
なんだか気持ちが悪かった。
ガララ、
あなたは帰って来ない。
ベランダに出ると風にぐしぐしと髪を撫で回された。わんこ人がじゃれるように髪を弄び、うれしそうにしている。
しばらくして、腿に不快な感触を感じた。ぴたぴたと張り付く
ベタベタと湿気が絡み付きとれない。もがいてもがいても離れてくれなくて、キィー!と鳴いてもそれでも離れようとしない。
すると、風が周りをぐるぐる回り、僕を喰む湿気を食ってどこかへ飛んでいってしまった。
あなたはどこへいくのだろう。
じめじめしたものくわえ込んだまま、
僕を助けて、僕をひとりぼっちにして。
あなたは、どこへ
きっとあなたはどこかでこっそり消えている。わたしの見えないところで。
ねえ、ほらまたこんなに湿気が絡み付いてきた。
助けて、
帰ってきてよ。