歌姫

□Just before
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静かなこの夜に貴方を待ってるの
あの時忘れた微笑みを取りに来て




ラクスは歌っていた。


この街はオーブ。この国の首都になっている。

この街の隣に、彼女の育った小さな町、マルキオがある。
町の中心にあるマルキオ寺院が町の名の由来だ。

15年前、その寺院の4代目マルキオ導師が、川のそばで倒れていた女の子を拾った。それが、ラクスである。


そう、ラクスは孤児だった。

当時、ラクスまだ赤ん坊だったが、持っていたハンカチの刺繍から、名前だけは分かった。




今朝、久しぶりにラクスはマルキオ寺院を尋ねた。



「いらっしゃい、ラクス。お元気そうですね」


名を呼ばれ、ラクスは笑顔になった。


「マルキオ様!お久しぶりですわ♪」


5年前、それまで寺院で暮らしていたラクスを引取りたいという人が現れた。


シーゲル・クライン。この町の町長だ。

ラクスは養子となり、役場の仕事を手伝いながら、たまに歌を歌っていた。



そのラクスの歌が最近、評判になった。

町から町へ広がり、国中に知られるようになった。



今日、ラクスはオーブの大きな舞台でコンサートを行っている。

正確には、人気歌手のコンサートのスペシャルゲストとして歌う。

控室でマルキオとシーゲルが、ラクスの緊張をほぐそうとしていた。



「大丈夫ですよ。いつもどおり歌えば良いのです」


「そうだ。何も固くなることはない」



さっきから、言葉を変えて同じことばかり言っていた。

そんな2人が面白くて、ラクスの緊張はほぐれた。

そして、出番が来た。




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