伝勇伝Novel

□美女と野獣ではなく美女とヲタク
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ベタの指示をすると、フェリスはやり始めた。
さっきまで騒がしかったのが、嘘の様に静かになる。
真剣に塗ってくれている横顔には、ニキビもソバカスもない。
たまにコイツは二次元から来たんじゃないかと本当にそう思う。(いや、しょっちゅうかもしれない)
自分が見られていることに気がついたのか、顔を上げ、
「‥しかし、この汚い部屋を綺麗にする気はないのか‥‥?」
「ん〜?だって、なにかを犠牲にしなきゃ、同人活動なんて出来ないじゃん…。
あれだよ、『犠牲があるから救いがあんだよ、新人』!!」
「…………新人?」
しまった…と思った。
フェリスがこの名台詞?がわかるはずもない。
「ぁ〜…。新人ってのは‥‥その、気にしないで!?」
「…ん」
今のは危なかった…。
フェリスが突っ込まなかったから良かったけれど…。
こういう時は、俺なんかが幼馴染みで肩身が狭いんじゃないかな…とかよく思う。
でも、相変わらずフェリスは小さい時と同じ態度で接してくれている。

「ん。言われた分のベタは終わったぞ」
「ぁ〜、次は消しゴムかけて欲しいんだよね〜…。
あ、でもまだペンが乾いてないから、だんご食べながらマンガでも読んどいてよ」
そう、今回はいつもと違った。
いつもはギャグなどしか出していなかったが…。
今回は百合原稿がある。
当然フェリスには見せられないので、自分でやるつもりだったのだが‥‥。
「…ライナ。これのベタはやらなくてもいいのか‥?」
「ん〜?
どれどれ…ってぎゃぁあぁああああ!!?
それは重要なのだから俺がやるっていうか構造が気に入らないからやり直すっていうかそのあの…!?」
原稿には、人物の髪の毛のベタだけが白いキスシーン。
いきなり直球きたっていうか明らかに女同志だし……!!
今日こそ命日かもしれない、と覚悟まで決めた。
しかし、
「ふむ。
では、これはお前が一人でやるのだな?」
と納得されてしまうと、逆に拍子抜けしてしまう。
結局なにも突っ込まれぬまま、締め切りを無事に乗り切ったのだった。



「ってことがあったから、俺、今日から脱ヲタします!!」
高校美術部の部室に大きな宣誓が響き渡る。
因みに、今は昼ご飯の時間。
秋休み明けは、文化祭にだす作品の仕上げに追われていた。
「…絶対無理だろ」
「いや、今回の俺はマジだぜ!?
なんたって今日の鞄にはマンガ&同人類は一切なしだし!!」
いやいや、どうだとばかりに言われても、それ普通だから。
「マンガ&同人類は…?
じゃあラノベは入ってるんだろ」
「ぅぐ!?それは!!
お前には『学園ピノ』の素晴らしさが分らないからそんな事が言えるんだ!!」
「とか言いながら、アニメイトの袋に入ってる弁当を食べないこと」
何も言えずに撃沈している。
まあ、俺もそこまで鬼じゃないからな。
「まあ、いいんじゃないか?
フェリスには何にも言われなかったんだし」
まだブツブツ言っているライナを適当に丸め込み、俺は昼を再開する。
全く、シオン・アスタール様はいつから恋愛相談窓口になったんだか‥。
ふとライナを見てみると、やる気が出ないのか窓の外をぼけーっと眺めている。
この馬鹿は全然気がついていないらしいが…。
「そこまでさらけ出したお前を見ても、
アイツはお前と話したいんだってことに、なんで気がつかないんだか…」
「ん?シオン、今、お前なんか言ったか?」
「早く作品仕上げないと、部長の権限を酷使して、お前だけ提出期限今日にするぞって言ったんだよ」
ぎゃーぎゃー騒ぎ立てるライナを見て、
俺はいつになったらアドバイザー卒業できるんだろう…と思った。
‥‥まあ、当分無理なことは確定だろうが……。


End.



H19 11月配信


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