GIFT
□sweet precious time
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「呼んだか。ヤコ」
それから30分もしない内に背後から聞こえた声に、思わず肩を揺らす。
事務所ビルの屋上。
ビル街特有の突風のような風に煽られながら、柵にもたれ掛かっていた身体を声のする方へと反転させた。
見慣れた長身は、その手に先程のメモ書きを携えて、ゆっくりとこちらへと歩み寄ってくる。
その姿に、少しだけ苦笑いが漏れた。
「さすがネウロ…その暗号もあっさりかぁ」
「まさか!僕はたまたま屋上へ来ただけです。2進数を10進数にしてアルファベットに当て嵌めるだなんて…そんな難しい暗号僕にはさっぱり…!」
「はいはい。チープな暗号ですみませんね!」
わざとらしく助手声を出す魔人に声を荒らげれば、エメラルドは瞬間にマラカイトへと姿を変えて私を見据えた。
「で、なんの用だ。わざわざこんな回りくどい方法で我が輩を呼び出して」
いきなり核心を突かれ、心臓が跳ねる。
思わず後退すれば、背中に柵の冷たい感触が触れて、前に進むしかないと思い知らされた。
しばし躊躇した後、持っていた小箱を腕ごとずいと前に突き出す。
「はい。これ…バレンタインのプレゼント」
消え入るような声。
後半は聞き取れなかったかもしれない。
魔人は釈然としない風な顔つきでその小箱を手に取ると、興味深げに観察を始めた。
「…知ってるでしょ?バレンタイン」
「無論だ。女が好意を寄せる男や、世話になった輩にチョコを贈るという実に下らんイベントのことだろう」
そのまましばらく何も言わない魔人に痺れを切らせて問えば、鼻を鳴らして得意げに返される。
…こいつ、言ってることは正しいんだけど、いつも一言多いんだよねぇ…。
「で、まさか貴様も我が輩に生ゴミを寄越したわけではあるまいな?」
「まさか。私だってちゃんと考えてるよ」
そう。
悩みに悩んで悩みぬいた結論なんだから。
ネウロは、私と小箱とを見比べてから、軽く鼻で笑って箱を顔の横まで持ち上げた。
次の瞬間には、箱は青白い炎に包まれ、灰と化したリボンと箱が風へと溶けて行く。
そして、魔人の手の中には1枚の小さなカードだけが残った。
00100/00001/01001/10011/10101/01011/01001
私の、気持ちを記したカードが。
ずっとずっと考えて。
否定と肯定を繰り返して。
それでも、どんな状況にあっても、辿り着く結論はいつも同じだったから。
それが、答えなんだと気付いた。
気付いてしまった。