GIFT
□sweet precious time
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「…これは貴様が考えたのか?」
いつになく弱々しい声音に、弾かれるように顔を上げれば、魔人が僅かに目を瞠ってカードをまじまじと見つめていた。
「…そうだよ」
不貞腐れたように返すと、その深緑をゆっくりと細める。
「これは『謎』のつもりか?ヤコよ」
「……そうだよ」
謎しか食べることのできないこの魔人へのプレゼントもまた、謎しかないのだ。
人間には手作りチョコを。
魔人には手作り謎を。
気持ちを伝えるには、出来合いのものより手作りの方が良いに決まっている。
だから、無理があるとわかってはいても、私にはこうする以外に方法が見つからなかったのだ。
ちらりと魔人を見れば、見事に視線がぶつかって、そのまま縫いつけられたように動けなくなった。
「…ヤコよ」
溜め息混じりに、諭すような声で。
「人間の醜悪な悪意から生まれる謎こそが我が輩の好む謎であり、貴様の作ったような人工的な謎は食えたものではない。まして、善意から生まれた謎など、謎であって謎ではないのだ」
「………」
わかってる。
それもわかってた。
わかってたけど…。
覚悟してたけれど…。
目の奥が熱い。
鼻の奥がつんとする。
羞恥と、虚しさと、絶望と。
溢れ出した気持ちが形を成して露出していく。
あぁ
そういえば、こんな気持ちを体験するのは初めてだな、なんて。
叶絵に言ったら笑われそうな話だ。
「だが」
急に近くで声が聞こえたと思ったら、頭を鷲掴みにされ、涙で濡れた顔を持ち上げられた。
恥ずかしくて急いで袖口で涙を拭いながら、間近の深緑を見つめ返す。
「貴様がその貧相な頭を捻って絞り出した謎だ。たとえ絞りカスだとしても、謎ならば食ってやるのが我が輩の信条だ」
「ネウ…ロ…」
ゆっくりと目を閉じれば、一際大きな雫が頬を伝う。
魔人はそれを皮手袋の人差し指で掬うと、見せ付けるように舐め上げた。
思わず赤面して顔を背ければ、またぐいと引き戻される。
「フム…やはり密度の低い低カロリーな謎だ。腹の足しにもならん」
マラカイトの双眸が私を射抜いて、好ましげに細められた。
「だが味は悪くないぞ。人間の味覚に喩えるなら…『甘い』、だ」
一気に体温が上昇する。
冷たい涙は消え失せて。
暖かい涙が溢れ出た。
あぁ、本当に。
いつも酷い仕打ちばかりして、心無い言葉ばかり浴びせるくせに。
その手が、その言葉が、急に優しくなる時があるから。
すごく不器用で、すごく乱暴だけど。
ネウロはいつも、私が一番欲しいものを与えてくれる。
だから、何度考えても、考え直しても、辿り着くのはいつも同じ答え。
自然と口が言葉を紡ぎだす。
「ネウロ」
ネウロの言う通り。
回りくどい方法なんて、煩わしいだけだった。
もっと、素直に言えば良かった。
「これからも、隣にいさせて?」
私もあんたに何かしてあげられるかな。
些細なことでもいい。
私がいて良かったと思えることができるなら。
だから、それまで頑張らせてよ。
あんたの傍で。
震える声で、それでもはっきりと言えば、角度を上げた口元から小さな牙がちらりと覗いた。
「当たり前だ。嫌だと言っても離さん」
それは、道具として?
それとも、人として?
とまでは訊けなかったけれど。
訊く必要もない。
どちらでも構わない。
この気持ちを、この魔人は拙いながら受け入れてくれたのだから。
ただ今は、それが嬉しいから。
次の日、事務所のネウロ用パソコンのモニタに、私のあげたカードが貼られているのを見て、また思いっきり赤面してしまったのは、悔しいから内緒にしておこう。
END.