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□#3『桂木弥子の育児日記 その2』
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こんにちは。
桂木弥子です。

魔人の子供、リドルを育て始めて数日。

魔人の成長はやはりとても速いようで。
言葉も喋るようになったし、自分で歩き回るようにもなってきました。

ずっと相手していてあげたいのは山々ですが、私も一応学生です。

元より探偵業で学校を休みがちなのに、これ以上休んでしまったらさすがにマズイと思います。

だからと言って、学校に連れて行くわけにもいかないので…
私がいない間でも一人で遊んでいられるように、おもちゃを買ってあげることにしました。

「やこー!なんかここすごいな!なんかいっぱいあるな!」
「おもちゃ屋さんだからねー。色々面白そうなのあるでしょ」
「あれなぞよりうまいか!?」
「…ガンプラは…多分食べれないと思うな…。あと、今日は別に食べ物を探しに来たわけじゃないからね。遊ぶ物を探しに来たんだからね」
「…なぞじゃないのか?」
「そんなあからさまにがっかりしないでよ…。まだ子供なんだし。遊ぶのが仕事でもあるんだから。さ、好きなおもちゃ選んでいいよー」

…すごいテンションの下がり方なんですけど。
背中に哀愁漂ってる感じさえしますけど。

「んー、やっぱルービックキューブとかパズルとかかなぁ」

くいくいっ

「ん?なんかいいのあったの?」
「これにするー」
「なわとびと…粘土?そんなのでいいの?」
「これがいいー」
「へぇ。案外と普通の物選んだね。…まぁいっか。じゃあそれ買って帰ろうか」

案外普通の物。

その見解がそもそも間違っていました。

「やこー。さっきのー」

家に帰って早々今日の戦利品をせがんできました。

「もう使っちゃうの?」

子供って飽きっぽいじゃないですか。
だから、できるだけ長く使ってもらえるように、本当は明日になってから、と思ってたんですが。

なんか…
この…
潤んだ瞳は反則だと思うんです。

負けました。
ええ。あっさりと。

「ん?なわとびで遊ぶの?…ちょっと室内は危ないんじゃないか…」

ひゅんっ

「な!?」

ぴしぃっ!

「おぉお。やこ!これいいな!」
「良くないよ!なんで持ち手片方だけ持って振り回してるの!?それはそういう使い方しないから!そんな鞭みたいな使い方しないから!」
「ちがうのか?」
「全然違うよ!あーもう!なわとび没収!!」
「あー!」
「危ない使い方しかできない子にはあげません!どうせ正しい使い方教えたって同じ遊び方しかしないのわかってるんだからね!」

だって魔人ですから。
あのドS魔人の息子ですから。

あの血が流れている限り、なわとびだって立派な凶器です。

「むぅぅ…やこのけち!」
「ケチで結構!痛い目見るよりマシですよーだ」

ぷりぷり怒りながら、今度は粘土で遊び始めました。

…まさか粘土も凶器になるなんてことはない…と思いたいです。

しばらく背中を向けたまま一心不乱に粘土遊びをしていたので、心配になって覗いてみたのですが…

リドルが作っていたのはなんと、完璧なフォルムのイチゴのショートケーキ…の粘土細工でした。

あ。これ昨日私がおやつで食べてた王美屋のだ。
うわ。イチゴの種まで完璧に再現されてる!
大人でもこんなリアルには造れないよ…。

…器用だな…。

「やこー!けーきできた!」
「う、うん。誰がどう見てもケーキだね…」
「きのうやこ、これおいしいってたべてた」
「…うん。あのケーキはそりゃあ形容しがたいほど絶品だけど…」
「これやるー。これもたべろー」

あ。やっぱり。

「さ、さすがに粘土は食べれないなぁ…」
「たべないのか?」
「う、うん。多分…食べたら私のお腹に空襲警報が発令されちゃう…」
「…だめなのか?」
「え…ダメっていうか無理っていうか…」
「…いっしょーけんめーつくったのに…いやなのか?」
「う…」
「……いやなのか?」

うっ…そのどこかあどけなさを残しながら、有無を言わせない圧力を込めた悪意の困り顔は…!

だ、駄目!
負けるな私!
ここで負けたら人間としての絶対的な何かがなくなっちゃう!

「いやなのか…?」
「……………バ、バター醤油で炒めちゃえばなんとか…いける…んじゃ…」





数時間後。

私の自慢の胃袋にも遂に空襲警報が発令された。



Fin.
 

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