GIFT

□just a little smile
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カリカリカリカリ…

特に謎の気配もない。
依頼が舞い込んできそうな予兆もない。

カリカリ…カリ…

戯れに新聞を開けば、人間共のくだらぬ政の記事が大半を占め、知らず溜め息が漏れる。
テレビを点けても、流れてくるのは我が輩の興味がとんと及ばぬ映像ばかり。

カリ…カ……

人間共に言わせれば「平和な昼下がり」なのだろうが。
我が輩にとっては実に「退屈な昼下がり」だ。

………………

「どうしたワラジムシ。『テスト勉強』とやらは終わったのか?」

耳障りな筆記音が止まったのに目を向ければ、トロイの上に好き放題教科書やら参考書を散らかして突っ伏す我が奴隷、ヤコの姿。
その様に鼻を鳴らし、我が輩は正面の接客用の背の低いテーブルに投げ出していた足を組み直した。

「貴様がどうしてもトロイで勉強したいと言うから、優しい主人がわざわざ退いてやったというのに、それを無下にするとはな」
「ううう…だって…終わるわけない…終わるわけないよこんなメチャ広範囲のテスト勉強…!」

見苦しい言い訳を口にしながら頭を抱え込むヤコにまたしても溜め息が漏れる。

「まったく、貴様には学習能力というものが皆無だな。以前も同じようなことで我が輩の手を煩わせただろうに」
「ぐっ…ちょっと聞き捨てならない部分もあったけど言い返せない…」

ヤコが言うには、定期テストとやらまであと1週間らしい。
そういえば、だいぶ前からそんな話をしていたように思うが、奴隷の話に耳を貸すよりも謎を追うことが最優先だ。
ここ数日は特に遠方の依頼が多く、事務所に戻らない日々が続いていたのもまた事実だが。

「ならば自身の力でどうにかすることだ。それとも、今度こそ我が輩の靴を舐めるか?」
「いいえ!結構です!」

ヤコは、我が輩の親切な申し出を首が千切れんばかりに頭を振って否定すると、またトロイとの睨めっこを始めた。
一人何やらブツブツと言いながら頭を両手で抱え込んでいたが、やがて何かを振り払うように勢い良く立ち上がると、そのまま事務所の出口へと向かっていく。

「どこへ行く?」
「ちょっと気分転換!若菜のたこ焼きでも食べてくる!」

振り向かずに言った我が輩の言葉に、苛立ちを隠せない返事をして、ヤコは事務所を後にした。

忙しく階段を駆け下りる足音を聞きながら、ソファの背に伸ばしていた両腕を膝の上で組み直して溜め息一つ。

「やれやれ…我が儘の次は八つ当たりか…帰ってきたら存分に躾け直してやらねばな」

言いながら横目で時計を見やる。

午後3時。

ヤコが来たのは確か朝9時だったな。
休憩もロクにとらず、丸々6時間勉強か。

まぁ確かに、息も詰まる頃かもしれん。

「食うことしか能のないヤコにしては耐えた方か」

僅かに口角を上げながら喉で笑う。

しかし
この退屈な時間をどうしてくれよう。

ヤコをいじって紛らわそうかと思っていたが、それも今となっては叶わない。
かと言って、これ以上詮索しても謎は出てきそうもない。

「…寝るか」

ならば体力の回復に専念するのが賢明だろう。

我が輩はそのままゆっくりと目を閉じて…
しかし何故か眠りにつくことなく、意識を別の方向へと集中させた。
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