GIFT

□sweet precious time
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「はー、やぁっと終わったー」

公園のベンチに腰掛けて、手足をうんと伸ばす。
吐き出した息が白く空に溶けていくのを、達成感に満たされながらぼんやりと見つめた。

2月14日

乙女の聖戦バレンタイン。

甘い誘惑と戦いながら作ったチョコを、お世話になった人たちに配り始めて早数時間。

空っぽになった紙袋をかさりと鳴らす風はまだまだ冷たいけれど。
動いて回って火照った身体には心地好くて、思わず目を細めてそれを堪能する。

笹塚さんたち警察の面々にも全員渡した。
もちろん、吾代さんにも忘れずに。
あと、池谷さんにも一応…座られそうになったから投げ捨ててきちゃったけど…気付いてくれたかな。
早坂兄弟に渡したら『お返しを楽しみにしていてくれたまえ』と黒い笑みを浮かべられて…今から1ヵ月後が激しく不安だ。

友チョコとして、叶絵にも渡した。
アヤさんにも差し入れで渡したし。
由香さんの分は…池谷さんのと一緒に投げ捨ててきた。
あかねちゃんは…チョコは食べられないから新発売のトリートメントを、あとで事務所に行った時に渡すつもり。

よし。完璧。

「あとは…」

ちらりと、横に置いたバッグを見やる。

白いバッグの隙間から、赤いリボンのかかった黒い小さな箱が見えて、知らず汗が滲んだ。

一番、渡さなきゃいけない相手に、まだ渡していない。

あの、緑眼の魔人に。

「…お世話になってると言えばお世話になってるし……お世話してると言えばお世話してるけど…」

それに、最近人間のイベントにやたらと興味を持っているあの魔人のことだ。
当然、バレンタインのこともチェック済みだろう。
私がチョコを渡さなかったら、きっと筆舌尽くし難い虐待が待っているに違いない。

恐怖の想像に戦慄して、バッグから箱を取り出した。

私の片手でも十分収まるほどの箱は、他の人に渡したものよりずっと小さく、ずっと軽い。

ネウロがチョコを食べられないのはわかってる。
だからもちろん、この中にチョコは入っていない。

数日間、悩みに悩んで決めたプレゼント。

「…気に入って…くれるかな」

箱を持つ手に力を込める。

たとえ気に入ってくれなかったとしても…
これは渡すことに意義がある。

そういうプレゼントを選んだつもりだ。

そう。たとえそれが受け入れてもらえなかったとしても…

そこまで考えて、断ち切るように首を振る。

悪い方に考えるのはやめよう。

それは昨日の夜、このプレゼントを用意している時に決めたはずだ。

両頬を挟むように軽く叩いて、己を奮い立たせる。
すっかり熱のひいた頬に、ぴりりとした痛みが走った。

それに押されるように立ち上がり、両腕を高く掲げる。

「よっし!行くよ!」

近くを通った小さな子供に笑われているのに気付き、恥ずかしさから逃れるように走り出した。

事務所まで、全速力であと少し。
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