GIFT

□dazzlin' darlin'
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「弥ー子っ!ありがとね〜。おかげさまで超レベル高い男揃いじゃない!?涎が出そうだわ…」
「あ、あはは…どういたしましてー…」

完全に獲物を狙う肉食動物の目をした叶絵に、苦笑いを返してそっと溜め息一つ。

都内某高級ホテルのバー。

控え目に灯されたムーディーな照明の店内には、煌びやかなパーティードレスに身を包んだ女性たちと、皺一つない上品なスーツをスラリと着こなす男性が数名。

かく言う私も、着慣れない淡いピンクのロングドレスと同色のピンヒールという出で立ちだったが、完全に服に着られてしまっていて、自分で言うのも悔しいけれど、不格好で、まるで月とスッポンだ。

こんな場違いも甚だしい場所で何をしているのかと言うと…

「やっぱ合コンはこうでないとねー!」

合コン、だ。

それも、店内貸切で。

良家のご子息ご令嬢が通う某私立大の合コンなのだから、これくらいは当たり前なのかもしれないけれど。

(それにしたって凄いよ…これはもう合コンと言うより社交パーティーだよね…)

手元の皿に取り分けたオマール海老のカルパッチョを口に運びながらしみじみ思う。
口に入れた途端にとろけるような口どけと味わいに、たまらず溜め息が漏れた。

店内中央のテーブルの上に所狭しと並べられた、色とりどりの料理の数々。
そのどれもが最高級食材をふんだんに使った逸品だった。

こんな高級料理がタダで食べ放題だなんて!

曰く、女子高生探偵こと私の参加が自身の参加条件だという叶絵に頼み込まれて参加することになった合コンだけど、まさに願ったり叶ったり。

駅前でレンタルした普段着慣れないドレスも、叶絵にやってもらった似合わないメイクも、この料理たちのためなら背に腹は…いや、腹に背は代えられないというものだ。

合鴨のローストを頬張り、幸福を噛み締めていると、背後から唐突に黄色い声が上がった。

「えー!?野上さんお酒ダメなんですかぁ?やっだ、かわいいー!」
「ちょっと美香!野上さんは今私とお話してたのよ!?…野上さん、それよりもあちらでお食事を召し上がりませんこと?」

咀嚼中だった料理を一気に飲み下して、声のした方を振り返る。

店の隅の窓際、胸を強調したデザインのドレスを身に纏ったグラマラスな美女2人に囲まれて、窓に背を預ける男が一人、困ったような笑みを浮かべて立っていた。

「僕は先生の付き添いで来ただけですので…お食事をいただくような立場ではありませんから」

やんわりと体よく断りを入れるその男は、いつもの青一色のスーツではなく、黒のカジュアルスーツという違いこそあったが、見間違うことなき緑眼の魔人その人であった。

念のため、と合コンへの出席許可を得ようと、無理を承知でネウロに申し出たところ、あっさりと許可が下りた。

何故か、魔人も同行するという条件付きで。

そこで断って引き下がるような性格ではないし、何より、下手に刺激して折角下りた許可を帳消しにされるのだけはなんとしても避けたくて、渋々ながら承諾せざるを得ず、今に至る。

(…変な偽名まで使って…一体何しに来たんだか…)

私のように食べ物が目当てでもなければ、叶絵のように異性との出会いが目的であるわけでもない。

そのどちらにも、ネウロは興味がないのだから。

あの魔人が自ら進んで動く時は、「謎」が絡んでくる時だけと言っても過言ではない。

(…てことは、ここで事件が起こるってことなのかな…)

もう何度となく、ネウロの「嗅覚」に誘われて「謎の生まれた現場」を目の当たりにしてきたけれど、やはり慣れるものではないし、慣れてはならないものだと思う。

どうしても、思い出してしまう。
重なってしまう。

赤黒い血の海に浮かぶ、父の姿と。

フラッシュバックしそうになる光景から逃れるように頭を振って、大きく息を吐き出した。

皮肉なものだと思う。

あの地獄から私を救い出してくれた…「謎」を食べてくれたのはネウロなのに、その地獄を呼び起こすきっかけもまた、ネウロなのだ。

それでも。

私は、ネウロの傍にいると決めた。
あの魔人のどんな理不尽な要求だって呑んでやると誓った。

何が何でも。

(…よし!)

奮い立たせるように両手で頬を叩いて、目の前の料理を手当たり次第に皿に取り分ける。

来たるべき「謎」に備えて今の内に食べておかねば。

(どんな事件だってどんと来いってのよ!)

備えあれば憂いなし。
腹が減っては戦ができぬ、だ。
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