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□STAR FIELD
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規則正しく響く打鍵音。
時折混じるマウスのクリック音。
ただ垂れ流しているだけに等しいテレビからは、いい加減に聴き飽きたクリスマスソング。

聴覚を侵食する日常は、いつから非日常的になってしまったのだろう。

「あー…今日はクリスマスだねぇ」

それは一体誰に向けて言ったのか。

先ほどから一言も発することなくパソコンと睨めっこを続ける緑眼の魔人か。
はたまた、これまた一心不乱にクライアントとのメールを捌き続けるおさげの秘書か。

それとも…

「どうした。貧相な顔が更に貧相になっているぞ。貴様ら人間はこういうお祭り騒ぎが好きなのだろう?」

目の前に逆さまになった魔人の顔。

視覚を侵食する非日常は、いつから日常的になってしまったのだろう。

「そうだけどさ…今年は特に予定がないから…」

毎年、クリスマスは家族で過ごしていた。

いつも多忙なお父さんもその日は早めに帰ってきてくれて。
お母さんが買ってきてくれたケーキとプレゼント。
美和子さんが作ってくれたご馳走を皆で囲んで。

それが日常で、当たり前。
疑うことなく与えられ、享受していた時間。

幸せ、だった。

でも今は日常が日常ではなくなってしまって。

日常は故意に壊され、非日常が不意にやって来た。

「ふむ。確かにここ最近はどうでもいい依頼ばかりで謎の気配が微塵も感じられん」
「うん…まぁその予定はなくてもいいかな…」

今年のクリスマスは予定がない。

お母さんは急な出張で帰って来れないと連絡があった。
叶絵は彼氏と六本木のイルミネーションを見に行くと浮かれていた。
吾代さんは「上客」の接待があると言っていた。
笹塚さんたちは…忙しいだろうな。

ひっそりと考えていたクリスマスパーティの計画は、一度も口外されることなく静かに幕を閉じた。

寂しくはない…と思う。

今日という日は偶々そうだったけれど、お母さんは相変わらず仕事で忙しくても、ちゃんと家に帰ってきてくれるし。
学校に行けば叶絵たちもいるし。
事務所に来ればアカネちゃんもいるし…

…ネウロも一応、いてくれるし。

だけどどうしてだろう。
こういう時、胸の奥が鈍く軋む。

もう、あの日常は戻ってこない。帰れない。

心を蝕む現実が、浮き彫りにされて悲鳴をあげている。

「ねぇネウロ」

だからだと思う。
きっとそのせいなんだと思う。

「今日さ」

そうでなきゃこんなこと

「ここにいても、いいかな」

絶対言わない。
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