読物

□愛してるから、さようなら。
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「前来た時も思ったけど、すごいたくさん人が居るね〜」

 市に出向くと、人・人・人の人だらけで、肝心な品物は全く見えなかった。

「望美様は、後程別当殿とご一緒に来られますでしょう? その時は、きっと別当殿がさり気なく望美様を誘導されますよ。今回は、市の時にだけ出る茶店に参りませんか?」

 飛鳥さんが、品のいい笑みを浮かべながら言う。私は、間をおかずその提案に乗った。
 だって、お腹が空いてたんだもん。
 そうして、飛鳥さんに連れられて入った茶店の団子は、絶品だった。

「美味しい〜! ねえ飛鳥さん、これ、ヒノエ君にも持って帰ってあげてもいいかな?」

 帰って一緒に食べたい。
 そう言うと、飛鳥さんは面白そうに微笑んだ。

「望美様、昨夜別当殿に家でお待ちするようにと申し付けられたのではございませんでしたか?」

「……う」

 そうだ。ヒノエ君には内緒でここにいるんだった。
 そう思っても、この美味しいお団子を一緒に食べたいという気持ちはおさまらない。どうしよう、と考え唸っていると、飛鳥さんがクスクスと笑い声を上げた。

「本当に望美様は、別当殿を好いていらっしゃいますのね。わかりました、お団子はわたくしが望美様へのお土産として持ち帰った物だと、別当殿に伝えておきます」

「本当!? ありがとう!」

「いえ。望美様のためですから」

 そうして、お土産として買った団子を手に、私たちは家路を歩いた。その途中、

「誰か、誰か助けてください!」

 鈴蘭のような声が、私の耳に届き、声のしたほうを見やる。

「え? 何?」

 そこには、大柄な四人の男たちに囲まれた少女が、泣きそうな顔で立っていた。
 その風景は、まるであの時の六波羅を再現したかのよう。唯一つ違うことは、私は泣きそうな顔をするほど、か弱くはなかったということぐらいだろうか。

「飛鳥」

 隣に控えていた飛鳥さんの名を呼び、持っていた団子を彼女に預けた。瞬間、聡い彼女は私が何をしようとしているか悟ったようだ。

「望美様!」

 と、諌める声が背に届く。
 けれど、黙って見過ごすのは我慢ならない。私は、飛鳥さんの制止を無視して、男たちに声をかけた。

「何、してるの?」

 冷たい声が、意識しなくても喉から出た。

「ん〜? オメェにゃ関係ねぇだろうが。それとも、オメェも一緒に遊んで欲しいのかぁ?」

 卑しい笑みに、吐き気がした。

「私は、何をしてるのかって、聞いてるんだよ」

 太刀を抜き、男たちに切っ先を向けた。瞬間、彼らの顔色が変わる。

「脅すのには最適な武器だがな、相手を選びな嬢ちゃん」

 少し怒気をはらんだ声に、私の口元は無意識に上がった。
 相手を選べ? それは、こっちの台詞だよ。
 口に出さずに、心で返し、私は地を蹴った。

「はぁ!」

 不意を付いて、大きく開かれた足の下を潜り、男の背中に肘鉄を落とす。倒れかけたところを、腕力に任せて反対側に引っ張り、一本背負いで決める。まずは、一人。
 これは、海に落ちたあの人を助ける為に、何度も泳いだ結果得た力。

「にゃろう!」

 逆上した相手を倒すのは、たやすい。
 殴りかかってきた腕を太刀の鍔で受け止め、足をはらって倒れさす。倒れる寸前、あえて背に回りこんで力任せに蹴り飛ばした。二人目。
 これは、六波羅に居るはずのあの人を探すために、何度も地を駆けた結果得た力。

「さて、残り二人だね」

 言いつつ、隠し持っていた団子の一つを、地に放る。

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