恋華
□たまにはこんなこともある?
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「他人行儀に陛下って呼ぶなよ」
俺が初めて会ったとき、あの方は幼馴染にそう言った。
「シブヤ・ユーリ陛下………ねぇ」
場末の酒場で、グリエ・ヨザックは呟いた。
ヨザックの今回の任務は、新王ユーリ陛下の護衛だ。
明日はここシルドクラウトから彼の幼馴染であるウェラー卿コンラートとユーリ陛下一行の非常時の護衛として、念のため船に乗り込むことになっている。
彼はヴォルテール城で初めて会った新しい魔王について考えていた。
「やりあえるのかねぇ……『あいつら』と」
……やめだやめだ!!俺らしくもねぇ!!
ヨザックは卓上の酒の入ったグラスを持ち上げるとグイとあおった。
柄にもなくナーバスになってる自分に何だか笑ってしまう。
兵士は黙って仕事をこなせばいい、彼がどういう人物かなんて考えるのは、彼の護衛であるコンラッドや教育担当の王佐閣下、そして同じく若い新王の政務を補佐する役目を持つフォンヴォルテール卿の役目だ。
雲の上の方である魔王がどんな方でろうと俺には関係ないじゃないか。
新王即位のとき、上司であるフォンヴォルテール卿はかなり神経質になっていた。
ただユーリ陛下が人間世界で育ったからというだけではない、余りにも今は時期が悪すぎるからだ。
有能な諜報員であるヨザックはカヴァルケードのみならず、スヴェレラ、大小シマロンでの何とも妙な噂を耳にしていた。
……特に大シマロン王ベラール、そして小シマロン王サラレギー……今は大人しくしているようだが腹の中で何を企んでいるかわかったものではない。
あの坊ちゃんに……あの腹黒どもと対等に渡りあっていける力があるのかどうか。
可愛いだけじゃ、王様業はやっていけない……
「いつか」の話ではない、肝心なのは「今」なのだ。
ただなぁ……ヨザックは主を迎えたときのコンラッドの顔を思い出していた。
混血であるコンラッドは、ヨザックの目からみてもなんとも割に合わない人生(?)を送ってきた。
妬み、嫉妬、蔑み、逆に魔王の次男であるコンラッドに取り入って、彼の母であるツェツェーリエに近づこうとする者もいる。
昔から剣の腕ばかりでなく、彼らをあしらう為の処世術も磨かなければならなかった。
たとえ顔は笑っていても、どこか人と一線を引いているようなところがあった。
人を見る目は自分以上に「しびあ」で容赦がない。
そのコンラッドがあそこまで忠誠を捧げ、大切にしてる魔王陛下……彼にそこまでさせるなにがあるのか、ヨザックはどうしても知りたいと思ってしまった。