恋華
□出逢った君に捧げしアイは
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エーデルシュタイン卿アンネローゼの母ロザリアは
それはそれは眩いばかりの艶やかな金色の髪に
澄み渡るような空色の瞳を持ち
娘のアンネローゼが見ても溜め息が漏れる程の見事なプロポーションの美人である。
社交界では、一時期、あの前王ツェツィーリエとタメを張れる程殿方にモテたらしい。
ロザリアはフォンロシュフォール家の筆頭親族であるエーデルシュタイン家の当主、オスカーの一人娘だ。
そんな母が夫に選んだのは、彼女の幼馴染みにして父、オスカーの従者をしていたニクラスだ。
ニクラスは、特に目覚ましい武勲を挙げたこともなし、かといって特筆するような才覚の持ち主でもない、言ってみれば極平凡な魔族の男だ。
無論アンネローゼは父に不満はないし尊敬してはいるが、数多の王候貴族を差し置いて、何故美貌の母は父を選んだのか。
他にも母に似合いの、美しく身分の高い殿方は沢山いたのに。
アンネローゼがそう訊いてみたら、母は腰に手をあてて高らかに笑ったのだ。
『まぁ貴女ったらお馬鹿さんねぇ!お金なんて、いくら持っていてもお墓には持っていけないじゃないの!
綺麗なお顔をして素敵なお詩を読めるからって、それでお腹が膨れるかしら?』
アンネローゼの愛する母は、およそ姫君らしくない現実的思考の持ち主であった。
そんな母を身近に見て育ったアンネローゼは、およそ姫君らしくない女性に育ち、とある世界に熱中するようになった。