恋華

□出逢った君に捧げしアイは
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長く厳しい雪の季節を過ぎたうららかな春

暖かな空気が国内を充たす頃になると、動植物だけではなく、貴族間の交流も活発になる。


領地の視察に赴く者もいれば、ここぞとばかりに夜会に出席し、人脈作りに精をだすものもいる。



が、生憎アンネローゼは身を飾ったり領内を視察するよりも、敬愛する『あのお方』と『あのお方』の素晴らしさを文章にする作業に忙しく、祖父のエーデルシュタイン卿クレメンスからロシュフォール本家主宰の夜会に出席するように言われても乗り気ではなかった。



来月終わりには、王都でアンネローゼが心待にしてる『とある祭り』があるのだ。


そこで新作を出すと友人に約束しており、現在その追い込みの真っ最中なのだ。

アンネローゼは当年とって80歳の娘盛り、祖父がその夜会への出席を勧めるのも、いつもの婿探しの為に違いない。



「すみませんお祖父様、アンは持病の腹下し病が酷くて、とてもロシュフォール御本家には参れませんわ」


態とらしく溜息を洩らす孫娘に、頭痛がしたのかクレメンスはこめかみを押さえた。


「…アンや、お前確か前回の晩餐会には『持病の胃痛が』とか言わなかったかね?
その前はこむら返り、その前は足の捻挫だったか?」


「そうでしたかしら?」


物覚えのいいお祖父様だと内心舌打ちしたアンネローゼに、クレメンスはじろりと恨めしげに見やる。


「今回の宴には、ロシュフォール本家の方々だけではない、魔王陛下やヴォルフラム閣下、ギュンター閣下やグウェンダル閣下、かの有名な英雄ウェラー卿!!
王都の血盟城の方々もいらっしゃるのだぞ?」


なんですと!?


その時、アンネローゼの目がぎらりと光った。


「アンや、たまにはわしの面目をたててくれん「勿論、参りますわお祖父様!」

「そ…そうかい?そりゃ何よりだ…」

「えぇ、陛下や側近の方々がいらっしゃる宴、このエーデルシュタイン家が無下にするわけには参りませんもの!」


何故か態度を急変した孫娘に訝しく思いながらも、気が変わらない内にと早速ロシュフォール本家に出席の返事を伝えたクレメンスであった。
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