NARUTOの話

□笛の音に誘われた。
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円な月が、格子を透かして顔を照らす。日とは違う、硬質の眩しさが、意識を眠りの表層に留め、漂わせる。だからか。
その細い笛の音は、容易く現世(うつしよ)に引き戻してくれた。


外は火もいらぬほどに明るい。月は視界を遮りはしなかったが、音以外の、目指すものを示す目印を与えてはくれなかった。


細い音を辿る。不思議と、何も感じない音だった。喜びも、怒りも、哀しみも、楽しみも。何かに対する熱が無かった。
ただ、笛は音を奏でるだけ。ただ、音があるだけで。


笛の音が止み、誰何の声がかけられる。奏を邪魔されたことへの不満もなく、むしろ慈愛すら感じさせる優しい声で。
名だけ告げる。そして問うた。

汝、月にあらずや、と。

くつくつと声を震わせるだけで、縁に座した笛の主は答えない。
やがてまた笛の音が奏でられる。しろがねの髪が、僅かな風に揺れて月のように淡く光る。


甘い音色だった。



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