NARUTOの話
□案山子
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「そんなぁ……。」
我ながら情けない声が出た。しまったと口を押さえても後の祭り。後頭部向けて飛んできた小ぶりな花瓶を甘んじて受ける。
「避けてよ!情けない。」
「すまない……。」
素直に謝っておく。果たして彼女の言う『情けない』がどちらを指しているのかはわからなかったが、妊婦の苛立ちを煽るわけにはいかない。
なるべく頭から床や服に水が落ちないよう気をつけながら傍の棚にあったティッシュを取る。
何枚も使っていると、今度は花瓶の代わりに柔らかい布が飛んできた。
「ちょっと、ティッシュもったいないでしょ。拭いてあげるからかがんで。」
「ああ、ありがとう。」
わざわざタオルを持ってきてくれた妻の背丈に合わせ、向き合って彼女が拭きやすいようかがむ。そうすると目の前に大きく膨らんだお腹が来た。つい顔が緩む。
「ねえ、アカシ。」
「なあに。」
「抱き締めてもいいかい?」
「……ダメ。」
少なからずショック。未練たらしく視線を送っていると、タオルが頭から離れて行った。
「式がずっと見てるじゃない。」
「ああ忘れてた。」
是と返答を持たせて小鳥姿の式を追い払う。もう数日中に出産だっていう時期に国境まで戦争に行けなんて、三代目もたいがい無粋だ。
青空を火影屋敷の方へと飛んでいく式を恨みを込めて見送り、窓の桟に凭れてがっくり項垂れる。
「すまないアカシ。出産には立ち会ってやれないようだ。」
「あら。長いの?」
「作戦指揮官にもよるが、最低でも20日はかかる。」
「そう。ま!しょうがないわね。で、集合までどれくらいあるの?」
あっけらかんとした彼女に、こっちの方が面食らう。
「に、二時間くらい。」
「そ。じゃ、あなた。とりあえずこれ、片付けといてね。」
これ、とは足下で数個の欠片になってしまった花瓶だ。
颯爽と準備にかかる妻を見つめながら、「元気な子が生まれそうだなぁ。」と、呟いてみた。
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