NARUTOの話
□Drive
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「テンゾウ、こっち見てよ。」
「だめです。」
真剣に前方を見据え、油断なく左右に気を配りつつ、それでもこの恋人はオレに注意を向けようとしない。
当然、オレは気に入らない。
「テンゾウ。……テンゾウってば。」
「なんですか。」
返事もオザナリ。せっかくのデートだってのに、なんだよこの態度!
「浮気するぞ。」
「だめです。」
前から後ろへ。基本直方体の空間を中心として、じりじり焼ける灰色の道と、蜃気楼に揺れる見慣れない景色が流れていく。
ついでにオレの首筋で汗が流れた。
「暑い。」
「ちょっと待ってください。」
ちら、と視線を脇へずらした恋人は、さっと左手をひらめかせる。
瞬間、オレの悪戯心がざわめいた。
「捕まえた。」
「……危険ですから。離してください。」
無愛想な冷風が、テンゾウのおかげで強くなったけれど。
テンゾウが、呆れた顔して咎めてくるけど。
オレの不快指数がぐんと下がったのは、巧いこと捕まえたテンゾウの左手の湿った熱のおかげだ。
「テンゾウの左手、汗だくだ。」
「当然でしょう。ずっとハンドル握ってたんですから。」
強い日差しは、冷気に絶えず満たされる限定された空気を切り裂いて、テンゾウの残った右手を焼いている。
「乾かしてやるから。右もよこせよ。」
「先輩はボクに事故起こせっていうんですか。」
左だけで我慢してくださいと言うテンゾウは、つい先日免許取ったばかりの新米ドライバーのくせに、生意気にも片手運転中だ。
「ハンドルは両手で握るんだぞ。車校で習わなかったのか。」
「アナタがそれを言いますか。」
流れる景色がはっきりして、軽い衝撃と共にテンゾウの新車が止まる。
「テンゾウ、右手。」
「勘弁してくださいよ……今ボク運転中なんですから。」
当然、オレは気に入らない。
無防備なハンドブレーキを引き上げ、テンゾウの汗ばんだ襟首をひっつかんで引き寄せる。
「赤信号の時くらい、オレを見てよ。」
「せ、せんぱ」
BEEEP!!と後続車に急かされて、テンゾウは慌ててアクセルを踏む。
が、いつもより鈍い発進に、慌てる中にも首を傾げた。
オレが小さく笑ってハンドブレーキを押し下げた瞬間、車は急加速して、衝撃でシートに体が沈む。
「カワイイやつ。」
「先輩!!ふざけないでください!!下手したらボクら死んでますよ!!」
死ぬわけないだろ。オレが安全確認もせずにあんなことするかっての。
今のは右折車も対向車もいなかったからいいもののもし来ていたら云々と小言を言うテンゾウを一笑に符し、オレはダッシュボードからイチャパラを取り出した。
「着いたら起こせよ。」
「ボクの車になんてものを入れてるんですか。」
「ま、いいじゃない別に。お前の部屋にあるオレの歯ブラシみたいなもんだ。」
「はぁ……。」
いまいち納得していない様子のテンゾウに後を任せ、イチャパラをアイマスク代わりに寝に入る。
すぐ離せるように力は緩めたけど、片手は握ったままだった。
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