短編集「紅蓮」

□証拠ヲみせて【完】
1ページ/15ページ

僕には忘れてしまいたい記憶がある。

遥か懐かしき記憶を掘り上げてみるとそれは数えきれなかった。


だから無かったことにしたかった。


だけど幾ら自分から忘れようとも他人が僕を知る限り、悪夢のような呪縛から避けることは出来ない。

今さらどうしようもない。

まさしく愚かで、そして一生を無意味に無価値に遂げようとしても…。



「邦男君…来週の水曜日にお父さんが退院するそうです。一度お見舞いに行かれてはどうです?」

嫌です。あえて胸中をハッキリ言わず、曖昧に微笑む。

この人は、僕の里親の政美さん。

政美さんは僕の遠い親戚で、父親の従兄弟の奥さん。

僕の父親は、どうしようもない酒好き。

酒を死ぬほど浴びて、溺れた挙げ句にアル中ときた。

酒をもってこい。サイフの中にいくらあるんだ?もう無い?だったら貯金から崩してこい。

よくドラマで悲劇の主人公の父親が吐くようなセリフだった。
これを平然と口にする父親は多分、正常じゃないただのイカれ野郎だ。

その無職の父親を持つ息子の俺としては、父親がアル中用施設にブチこまれ、親子離れ離れになってから以降それっきり顔を出していない。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ