短編集「紅蓮」
□証拠ヲみせて【完】
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母も、父から離れた。
父親の荒れようは凄まじいものだったから彼女もきっと呪縛から逃れたかったんだろう。
離婚届という一枚の紙切れで、家族の縁を切った。
「邦男…お母さん、もうここで一緒に住めなくなったの。ごめんね…」
「…母さん、あの人といるのが辛いんでしょ。」
「ごめ……ごめんね。ごめん、ごめんなさいっ。」
すすり泣く母は、何度も何度も懺悔の言葉を僕に捧げた。
だけど…母親は僕と一緒に家を出ようとは言ってくれなかった。
一人で、子を養う自信が無かったからだ。
お嬢様育ちの母親はずっと専業主婦しかやってなかった。
親とは結婚を反対されてた為か絶縁状態だ。
ただ、なんとかすれば僕だってアルバイトすれば少しは生活の足しになるだろうし…母だって頑張れば何とでも出来たはずなんだ。
一緒に家を出て暮らそう
一度聞くことの無かった言葉。
ああ、この人にとって子供もこんなものか。
たとえ無理に着いてこようとしたって、母にとって邪魔にしかない存在。
それならそれでいい。
いつか僕は母や父にすがらないように生きていく。