第弐図書室
□少年、憧憬を抱きて
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「ばあちゃん! 買って来た!」
玄関の脇から庭へ回り込み、縁側で涼む老婆に一平は先のかりん糖を差し出した。
「ありがとう。お釣は一平が貰っとき」
「うん! どーもな!」
エヘヘ、と無邪気な笑顔を見せていると、奥から若い女性がよく冷えた麦茶を乗せた盆を携えて歩いて来る。
「ごめんね、一平。いつもありがとう」
「ううん。それより操、今日もレコード聴かせてくれよ」
一平は操の答えも聞かずに、雪駄を脱ぎ捨てて上がり込んだ。
「本当に、好きねぇ」
一平は同級生がする様な遊びはしない。
面子やベーゴマ、野球。夏だと云うのに虫捕りの一つだって。
ただ、操の祖母の使いに出ては、日がな操の家の蓄音機でレコードを聞いていた。
「一平……もう」
操が蓄音機の有る部屋に入ると、一平が大の字で寝そべっている。
大音量で掛かっていたのは、軍歌。
操は無言でレコードの針を上げて、曲を中断させた。
「何すると!?」
「……あたし、軍歌嫌いなの」