第弐図書室


□少年、憧憬を抱きて
2ページ/9ページ



「ばあちゃん! 買って来た!」


玄関の脇から庭へ回り込み、縁側で涼む老婆に一平は先のかりん糖を差し出した。


「ありがとう。お釣は一平が貰っとき」

「うん! どーもな!」


エヘヘ、と無邪気な笑顔を見せていると、奥から若い女性がよく冷えた麦茶を乗せた盆を携えて歩いて来る。


「ごめんね、一平。いつもありがとう」

「ううん。それより操、今日もレコード聴かせてくれよ」


一平は操の答えも聞かずに、雪駄を脱ぎ捨てて上がり込んだ。


「本当に、好きねぇ」


一平は同級生がする様な遊びはしない。

面子やベーゴマ、野球。夏だと云うのに虫捕りの一つだって。

ただ、操の祖母の使いに出ては、日がな操の家の蓄音機でレコードを聞いていた。


「一平……もう」


操が蓄音機の有る部屋に入ると、一平が大の字で寝そべっている。

大音量で掛かっていたのは、軍歌。


操は無言でレコードの針を上げて、曲を中断させた。


「何すると!?」

「……あたし、軍歌嫌いなの」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ