第弐図書室
□水面花
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「下らないですって?
年も役職も上の女と不倫してる貴方の台詞じゃないわ」
大人気なく、射る様な視線を彼に向けてしまった。
智士は言葉に詰まって、そのまま俯いては携帯をジャケットの内側に押し込む。
「……ごめん」
子供みたいに拗ねた顔をして呟く彼。
だけど私は、分かっているのに子供の頃から止められない癖で、爪を噛む。
ここ最近は特に回数が増えて来て、もう左手親指の爪は白い部分が見えない。
智士もその癖を知っているからか、黙って私の左手を口元から払った。
「ごめん、オレ……」
もう一度放たれた彼の台詞の終わりを待たずに、私は歩き出す。
限界だった。
肌寒い廊下に佇むのも、この関係を続けるのも。
「さ、席に戻りましょ。せっかくの『LAPHROAIG』十五年が薄まっちゃうわ」