第弐図書室
□水面花
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だけど背後からは何の返事も無くて、流れる空気を変えようと思った言葉は、modern jazzと共に店内に立ち消えた。
振り返るのも、何だか癪だし。
「やっぱり、今日はもう帰るよ」
私の癖を諫めておきながら、指先でテーブルを規則的に叩くのを止められない智士。
「そう……」
消え入りそうに呟いて、私はギムレットのグラスを空ける。
「なぁ律子、家に一緒に来てくれないか?」
「えっ?」
「悪い予感がするんだよ……もし何にも無かったとしても、お前なら香澄(かすみ)も不思議がらないしさ。
な、頼むよ」
カウンターで私の肩を抱く智士の瞳は、真剣そうではあった。