第弐図書室


□水面花
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 しかし、不倫相手に家に来て本妻と対面しろだなんて云う男は、世界にどれだけ居るのだろう。


 確かに私は、彼女、香澄さんとは面識があった。

 彼とこんな関係になる前から、私は直属の上司として彼の同期生達と共に自宅へ招かれたりしていた。


 中学、高校、短大とエスカレーター式に女子校で育ったらしい彼女は、一見すると聡明で、気配り上手で印象は良い。

 少なくとも、彼と関係を結び、彼女の本質を知らされるまではそう思っていたのに。


 私を“悪い予感”に立ち会わせたいのも、そうした事情を知っているからなのだろう。








 気が付けば、流れる繁華街を車窓から見つめていた。
 甘えた吐息で、智士が腰に手を回す。


「面倒に巻き込んでごめん」
「……今日何回目の“ごめん”なの?」
「そう言うなって」
「止めてよ、こんな所で」
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