第弐図書室


□水面花
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 二人の絆の深さは、私がどんな鋏を使ったって断ち切れやしないのだから―――









 まだ十時を回った所でも、住宅街はひっそりと静まっていた。
 明かりの溢れる家々もあるが、騒がしさは感じられない。

 幾つか並び立つマンションの一棟でタクシーを降りる。

 真新しくて巨大な建物は、都会の闇の中でひっそりと、だけど存在感が異様な要塞の様に感じられた。


 その要塞の中で彼女は、智士の愛情と云う鎧を纏って、今、何をしているのだろう。


 いっそのこと、建物ごと全て吹き飛ばしてしまえたら、どんなに気が楽になるか。

 諫められるのを覚悟で、私は八階に向かうエレベーターの中で再び爪を噛んだ。


「……これで何とも無かったら、私はどんな顔をしたら良いの」
「その時はその時さ。何か上手いこと言うよ」
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