第弐図書室
□項(うなじ)
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「ねぇ、耕史! 出店も出てるよ!」
普段、背の低い事を気にして居る志歩が、同じ様な背丈の少女達が群がる露店に加わった。
「早く行こうぜ、良い場所が取れないよ」
今年最後となる花火大会は予想以上の人出で、俺はやっぱり止しておけば良かった、とぶつぶつ呟いて居た。
頬を膨らませて、俺の甚平の袂を引く志歩。
本当に背は低くて、見下ろすと丁度、ある部分が露になっていた。
白い、項。
襟足の浮き立つ項が。
所で、俺は花火大会なんて何年振りに来たのだろう。
付き合いたての志歩が、渋る俺に“どうしても”とせがんだので、今日は仕方無く足を運んだ。
尤も、花火なんて始まる前から、この能天気極まりない雑踏に目眩いを覚えて居るのだが。
どちらかと云うと、花火は苦手だ。
いや正確には、花火大会と云う場所そのものに吐き気を覚える。
だって。
あの人を思い出すに決まっているから。
俺の隣から有無を言わさず姿を消した、紅が眩しかったあの人を。