第弐図書室
□少年、憧憬を抱きて
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「おばちゃーん! かりん糖ちょうだーい!」
閑な住宅街にある商店の軒先で、一人の少年が叫んだ。
商店主らしい女性は、真っ黒なかりん糖をせっせと袋詰めしながらも、ちらりと横目で少年を見る。
「一平、あんたお菓子ばっか食べんと、ちゃんと夏休みの宿題しなさい」
少年は舌を思い切り出し、ふくれっ面でかりんとうを受け取った。
「オレが食うんじゃねーよ」
「じゃあ、誰さ」
「オレん家の裏の高田のばあちゃん」
お釣をやり取りしながら一平の話を聞いて、女性は何か考え込む様な仕種で口元に手を置いた。
「あぁ……操ちゃんの所かい」
「うん。なぁ、なんで操ん家には父ちゃんと母ちゃん居ないと?」
汗を浅黒い肌に滲ませて、無垢極まりない瞳で尋ねる。
女性はそんな一平の額を小突いて言い放った。
「んなこと、あんたは知らなくて良か」
ぷいと顔を背けられ、一平は不服そうな顔をして砂利道を駆けて行った。
蝉の声が耳に張り付き、最頂点に居座る太陽が少年の行く道を照り付ける。
時は昭和―――