第弐図書室


□豚と赤い華
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しゅるり、しゅるる。

まだ薫りの若い青畳の上に、金糸きらびやかな帯が衣擦れの音と共に落とされる。


しゅっ、さらり。

艶やかな朱の着物も、薄く色付いた襦袢も、慣れた手付きで剥がされ。

一気に立ち込めるは、雌特有の鼻に纏わり付く匂い。

噎せ返る様な藤の香の焚き物の中、朧に揺れる行灯の炎が女の白い四肢を静かに照らした。
その陰影が、丸みを帯びた躰の起伏を見せ付けて。


それを眼前にした男は、ぐびりと有田の猪口を飲み干す。
甲で口元を拭い、射る様な視線で見たのは目の前の茂み。

では無く、その僅か上に鎮座する赤い一文字だった。


「清さん、よう、見ときや」


遠く賑わう座敷の声を静かな呟きで割り、女は産まれた儘の姿で立ち竦んでいる。

しなやかな指先が、その一文字をなぞった。


「……これが、新しいウチや」


つうとなぞられたそれは、やや隆起して、固さも有る様。

清治(せいじ)は静かに猪口を床に置き、ゆっくりとその痕に手を遣る。

思った通り固く、よくよく触ると糸目も感じられる気がした。

舐め回す様に女の足元から徐々に見上げ、最終的には瞳と瞳を合わせ。
何かを確信した様に頷いた。


「……綺麗やないか」
「おおきに」
「もっと、酷い痕になっとるかと思っとったけど」
「先生(センセ)の腕がエエからね」


臍の脇から下に向かって伸びているそれは行灯の火に照らされず、然して目立つ様には見えない。
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