第弐図書室


□水面花
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「あれ……おかしいなぁ」


 そう一人ごちた彼は、耳に当てた携帯から予想外な反応が返って来た様だった。

 訝し気、とはよく有る表現だが、私は初めてその表情を目の当たりにした気がして。


「智士(さとし)……、電話出ないの?」


 周囲に気遣ってか、店の外、ビルの廊下に出ていた彼を私は遠巻きに見ていたのだが、彼の表情に居堪らなくなった私は、思わず廊下に出て声を掛ける。


「律子……」
「ふふっ。心配そうだから」


 まさか出て来るとは思わなかったのか、呆気に取られた彼の頬を軽くつねって微笑みを誘う。

 古びた廊下はあちこちの店から漏れる喧騒で、案外賑やかだった。


「家の電話にも出ないんだけど、携帯も電源が切れてるみたいで……」
「心配なら帰れば良いじゃない。私を置いてでも」
「りつ……」
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