第弐図書室


□死に逝く花、君の花
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 さして用も無い退屈な日曜、僕はふと庭へ目を遣った。


 そこでは初夏特有の輪郭際立つ太陽に照らされて、結婚七年目の妻が漸く生え揃った草木に水を与えて居る。


「良い子ね、沢山お飲み」


 庭の水栓から直接ホースで蒔かれる水は空から降り注ぐものを一身に受け、いちいちキラキラと輝いて見せては葉や茎にしがみつく。

 その懸命さと、妻の柔和そのものの表情に何故か気恥ずかしさを感じた僕は、たったガラス窓一枚向こうの緑に足を踏み出せない。


 久し振りに、彼女のこんな穏やかな顔を見たから。


 ……いや、違う。


 ただ何となく、頭痛を覚えて来たからだ。


 じわりじわりと誰かに締め付けられている様な錯覚、鈍痛。

 それに耐えられなくて、僕は両の親指の腹でこめかみを押さえた。


(こんな光景……前にも見た事が有る様な……。
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