過去短編小説

□ファースト・ラブ
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 午後1時28分。


 約束の時間まであと2分。



【ファースト・ラブ】



 場所はお台場のフジテレビ前。思い出深いこの場所を待ち合わせに選んだのは、太一。


 なぜあたしがこんな場所に居るのかというと、それは昨日かかってきた一本の電話が理由だった。


 昨日――金曜日の夕方に、太一から電話がかかってきた。内容はとても簡潔で、一言。

『空。明日の午後、出かけねェか?』

 ちょうど次の日、偶々テニス部が休みだったので二つ返事でOKした。

『場所は…お台場のフジテレビ前。時間は…そうだなー、1時半からでもいいか?』


 そして、太一と出かける約束をした。


 太一はそんな気で誘ったんじゃないってわかっているんだけど、でも、どうしても胸は高鳴る。昨日の夜は、ドキドキしすぎて中々寝付けなかった。
 今日だって朝早くから起きて、着ていく服だの髪型だの髪飾りだの…そんなことばかり気になってしまって。


 いくら太一とは昔からの顔なじみとはいえ、中学に上がってからは二人だけで出かけることなんてなかった。それぞれ部活もあるし、顔を合わせるとしてもヤマトと三人でだったり、みんな集まってだったり。

 だから、今日二人だけで出かけるというのは、本当に久しぶりだった。

 まあ、太一はそんなこと気付いていないのかもしれないけれど。
 それでもあたしにとっては今日一日が特別な、意味のある一日には変わりないから。
 だから、普段は着ないような華やかな服を選んで着てきた。
 ――ふわっとした水色パステルカラーのロングスカートに、胸元にレースの縁取りがある白のキャミソール。その上に、襟や袖口に小さな花柄が散りばめられている黄色のカーディガン。髪留めは、小学生のときに太一から貰ったものをしている。

 まだ肌寒い風がピュウッと吹き、その寒さに腕を擦った。

 いくら暖かくなってきたからといっても、まだまだ春は先の話しね。この格好は薄着だったのかもしれない。


 一人ぽつんと立ち尽くして居ると、前から走り寄って来る太一が見えた。

     
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