過去短編小説
□ファースト・ラブ 〜スモール ラブ〜
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幼かったヒカリが、大人の階段を上った気分だ。いつも一緒にいた兄としては、なんだか悲しいような寂しいような…。あの冒険(とき)のヤマトの気持ちが、今頃になって痛感するほどわかってしまった。
まるで現実から逃避するかのように思考の淵に居たおれは、ヒカリの「お兄ちゃん」という声でこちら側へと帰ってきた。
「ねえ、お兄ちゃん。お兄ちゃんはどう思う?」
「どうもなにも……既成事実は犯罪なんじゃないのか?」
「大丈夫よ。バレないようにバッチリやるから」
天使のように可愛らしく微笑むヒカリだが、今確かに悪魔の尻尾が見えた気がした。
なんだか腹黒くなった気がするなあ…。
兎に角ヒカリを思い止まらせようと、おれは必死で説得を始めた。
「なあ、ヒカリ。既成事実はマズいって。な? 考え直せよ」
「でもそうでもしないと、付き合えないんだもん」
「は? 付き合えない? ヒカリ、お前……タケルと別れたのか?」
「え? なに言ってるのお兄ちゃん。あたし、タケルくんと付き合ってないよ?」
「はあ?」
言っている意味がわからず、思わず間抜けな声が出てしまった。
おれが訳がわからずにヒカリを見ていると、ヒカリはヒカリで訳がわからないといった表情でおれを見返してくる。
なんとなくだが理解してきたおれは、違うよな? と思いながらもゆっくりと口を開く。
「なあ、ひょっとして…ヒカリが既成事実を作ってまで恋人にしたい相手って……タケルのことか?」
「えっ、お兄ちゃんなんでわかったの!?」
「なんでって……」
わからないハズがない。
どこからどう見ても両想いだった二人に、おれたちみんなが付き合っているんだろうと思っていた。気付いていなかったのは、そういったことに鈍い大輔や賢くらいのものだろう。
それこそ熟年夫婦のように、二人の仲は理想的だった。
なのに、である。
まさか二人が付き合っておらず、それどころかお互いの気持ちに気付いていないとは。
はっきり言って、話がややこしすぎる。
今までそんなことを相談してこなかったヒカリが既成事実まで作ろうかというのだから、よっぽど切羽詰っているのだろう。
だが。
ここは兄として、妹を正さなければ!
ガシッ! と、ヒカリの肩に両手を置き、真剣な表情で説得を開始する。
「なあ、ヒカリ。いくら好きな人がいるからって、既成事実とか…その……夜這い……は駄目だと思うんだよ! そんなことしたら、相手の心は一生手に入らないぞ!?」
「でも……」
「お兄ちゃんに任せとけって! な? タケルとの恋が上手くいくように頑張るからッ!」
「……うん」
なんとか説得でき、ふう、と安堵の息を吐く。
ヒカリの肩から両手を下ろし、取り合えずテーブルに座るように進めることにした。