novel
□crazy for you(後編)
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「レイちゃん?‥うん、あたし‥うさぎ」
学校から帰って来たうさぎは自分の部屋からレイに電話をかけていた。
美奈子達に話したように、自分が想っていることをゆっくりと電話越しに伝えた。
最初は説教まじりで
「本当にいいの?」
と聞いてきたが、次第にうさぎの気持ちを理解してくれた。
「そう。うさぎの気持ちはわかった。そっか‥衛さんには‥もう言ったの?別れるって‥」
「ううん、まだ。これから会いに行くつもり。その前にレイちゃんに話しておきたかったから。」
「そっか、ありがとね。きっと衛さんも分かってくれるわよ。」
「うんっ、レイちゃんありがとう!」
「何よ、今更///‥いい?いつでも自分の気持ちに正直にいるのよ、うさぎはうさぎらしく!ね!!あたしは衛さんの見方でも星野くんの見方でもない、あんたの見方なんだからね!!」
「ありがとぅ‥レイちゃん!」
受話器からうさぎが鼻をすする音がする。
「あんまり泣いてばっかいると星野くんに嫌われるわよー!!」
「なっ泣いてなんかないよっ!!‥じゃあね、レイちゃん!!」
電話を切って、少し経った後、うさぎは深く深呼吸をして再び、慣れた手つきで電話のボタンを押した。
「…もしもし、まもちゃん?…あのね、話があるの‥」
うさぎと衛は近くの公園で待ち合わせをした。
もう、すっかり空は群青色に染まっていた。
「ごめん!待ったか、うさこ!!」
ベンチに座っていたうさぎに衛が駆け寄った。
「ううん、あたしも今来たとこだから!」
衛は無理に笑顔を作るうさぎに違和感を感じていた。
「あのね…あたし‥まもちゃんに伝えなきゃいけないことがあるの‥」
自らの手をギュッと握ってうさぎは言った。
「…あんまり、良い話じゃなさそうだな…」
衛は苦笑しながら言った。
「‥あたし、セイヤが好きなの‥だから‥もう、まもちゃんとは付き合えない…」
「えっ‥」
驚きを隠せない衛は冷静を装いつつ、聞いた。
「俺の事、嫌いになったのか?」
「ううん、違う。そんなことないょ。」
「じゃあ…」
「でもね、今は‥セイヤを想う気持ちが大きいの‥大きくなっちゃったの‥セイヤが大好きなんだよ‥」
涙がだんだんと込み上げてきたが、それでも衛を真っ直ぐ見つめるうさぎ。
「‥やっぱり‥留学したのがいけなかったのか‥」
「え‥」
「淋しい思いをさせたのは悪いと思っている!!
もう一人にはさせないから‥」
衛はうさぎの肩を抱こうとした。だがうさぎは、衛の体を両手で押し戻した。
初めて、うさぎが自分を拒んだ…
「…もう、気持ちは変わらないのか‥?」
「うん‥あたし、これからはセイヤと一緒にいたいって思ったの、その気持ちは変わらない」
真剣な顔で言ううさぎに衛は折れた。
「そう…か…わかった…うさこの気持ちはわかったよ
…俺は…何よりうさこの幸せを願っているから‥うさこの幸せが星野くんといる事なら‥悔しいけど、応援したいと思うよ。」
衛は精一杯笑って見せたが、どこか切なげな表情をして言った。
「ごめ…ごめんね…まもちゃん…っ」
衛との思い出が走馬灯のように頭の中を駆け巡り、思わず涙が零れ落ちる。
「うさこは何も謝る事はないよ。
…本当は気づいていたのかもしれない…うさこが星野くんを好きだって事。」
うさぎは衛を見上げる。
「戦いが終わって、久々に会えてデートした時、なんだか浮かない顔をしていたし‥うさこの視線の先には俺じゃなく、いつも星野くんがいたから‥そうじゃないかなって思ってたんだ‥いつか言われるんじゃないかとわかってはいたけど‥まさか今日だとはな‥」
苦笑いで誤魔化す衛。
「まもちゃん…」
「出来れば俺が幸せにしてやりたかったけどな…星野くんに宜しくな、幸せになれよ、うさこ‥」」
衛は優しくうさぎの背中を押した。
まるで星野の元へ行けと言うように…
「うん…ありがとう、まもちゃん!」
うさぎが少し歩き出した時、「うさこ!!」と呼び止められた。
「俺の事、好きと言ってくれてありがとう!!」
うさぎは振り返り、また涙が溢れてきた。
「あたしこそ‥大好きだったよ!!」
うさぎは出来るだけ笑顔でそう告げると走って行った。
「大好きだった…過去形か…」
最後に見たうさぎの精一杯の笑顔が頭から離れず、衛は暫くその場に立ち尽くしていた。