カクテルドール

□<グラス>
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「それで本当に全部?」「うん」
「そっか…わかった」
「…うん」
「…で…どうするつもりなんだ?」
「どうするって…?」
「いや…もし…このままなら…」
「…昔の話でしょ?」
「まだ続いてる奴もいるんだろ…?」
「…全部切るよ」
「…いいのか?それでも俺は変わらないよ?」
「いいの…好きな人は一人だけだから」
「…そう…なのか?」
「そうだよ…信じてくれないの…?」
「…信じてるよ…」
「…よかったぁ…」

街から離れた住宅街。
微かな車の音しか聞こえない静けさの中、小さな家の一室にベッドで語り合う男女の姿があった。
灯りはサイドテーブルの小さなライトだけ。
そのテーブルには様々な種類の瓶とたくさんのグラスが乱雑に置いてある。
全て空になったそれらはまるで誰かが今まで過ごしてきた人生の縮図の様に思えた。

「…栞那は…俺の事好き?」
男はライトを消し、女を見つめながら改めて問う。
「好きだよ…もう徳博だけ…」
「俺も…好きだよ」
「…ずっと一緒…だよね?」
「…あぁ…」

すべて脱ぎ捨てた女を優しく抱き寄せる男。
その薬指にはリングが月明かりにに照らされ光っていた。

寄り添う二人は氷よりも冷たい現実を互いにとかし合うかのように熱く唇を交わす。
「……かんな…」
「…んっ…のり…ひ…ろ…」

絡ませた舌から全身へと広がっていく抑え切れない熱。
栞那は溶けてしまいそうな感覚に陥りながら、躰の芯の疼きが強くなっていくのをはっきりと感じていた。
「…んぅっ…もう…ダメ……」
息が荒い。
「…まだキスしただけだよ…?」
笑いながら囁く徳博。
「…ゃ…んっ」
栞那は徳博の全てを求め激しく腕を絡める。
「……もう……欲しい…」
徳博も昴まりを抑える事は出来なかった。
「…栞那は可愛いね…」
そして二人はどこまでも眩しすぎる闇へと堕ちていった。


…数ヶ月後…

ベッドに横たわる一人の女。
つい先程まで泣いていたのだろう。枕はまだ濡れている。
乱れた布団が女の苦しみを無言で語っていた。

出逢いは偶然かそれとも運命だったのか。

ただ、静かに眠っている女の表情に後悔の色は見えなかった。
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