カクテルドール

□<バーボン>
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〜〈バーボン〉〜

…ピピピピピピピ
…バシッ…
「…ぅう…ん…うるさいなぁ…もう朝…?」

鳴った目覚まし時計を明らかに不機嫌な様子で止める少女。
けだるそうにベットから出て洗面所へ向かう。
リビングで母に会ったが会話はなかった。
いつもの事だ。
顔を洗い鏡に写る自分を改めて見る。
最近切ったばかりの短い髪、表情のない瞳、疲れた顔。
どれも自分の物とは思えなかった。
部屋へと戻った少女は小さな溜め息をひとつ洩らし諦めた様に着替えを始める。

紺色のブレザーに赤いネクタイ。胸のポケットには〈中〉の文字が入った校章。
少女は朝食代わりのビスケットを口に放り込み、重たい鞄を手に家を出て行った。

(…もう全部面倒臭い)少女はいつもと逆の方向に向かって歩いていた。
厳しい決まり事だらけで中身の無い家。
普段の会話はほとんど無く口を開けば罵り怒鳴る母。
殴られるのは当たり前でナイフを突きつけられる事もよくあった。
実際自分が何かした訳でもないのに何度も殺されそうになっている。

学校でも話しをする人間はいない。
テストさえ良い点数なら何も言って来ない教師。それは例えいくら校則違反をしても変わらない。教師に何も言われない生徒は他の生徒のいじめの対象になるらしい。
無視されるだけならまだしも、酷い時は給食に薬品を入れられ中毒を起こして入院した事もあった。

何の為に生きているのか分からなくなっていく毎日。
もうどうでもいいとすら思えてくる。

しばらく歩いた少女は偶然見つけた小さな公園のベンチの下に鞄を置き、またあてもなく歩き始めた。
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