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□昼休みの直訴
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暖かな昼休み。ある者には学習時間であり、ある者には友との語らいの時間であり、またまたある者には貴重な睡眠時間であるこの時間の人気のない廊下の片隅に二人分の影があった。
「お願いします足利さん。僕を弟子にして下さい。」
人物の片方がそう言って床に手を付き頭を下げた。
名を豊臣秀輔、明るい赤茶の髪に人の良さそうなたれ目をしたこの学校の一年生。その可愛らしい見た目とは裏腹にかなりの策士で、最近では日頃の努力がかなってか着々と学年での権力を握りつつある。
髪が床に付くほどに低くまで下げているところからどれだけ真剣なのかがわかる。
「弟子って言われてもなぁ…。」
その頭が下げられた先、足利直晴は心底困っていた。
「自分そういうのはやってないしやりたくないし。第一なんで自分なんだ?それといい加減頭上げろ。」
足利に問われて顔を上げた豊臣はふわふわと視線を漂わせた。
(どうしよう。足利さんの弟子とかそういうのになれたらこれから学年で伸し上がるのに有利だからとか素直に言っちゃったら気分悪くしてお願い聞いてくれなくなっちゃうだろうなぁ。何て言ったら…)
「なぁ、豊臣。お前それさっきから全部心の外にだだ漏れだぞ?」
足利を軽く頭を押さえ、呆れたように豊臣に言った。
「えっ!うそっ!?」
「うん、嘘。でもそういう反応するってことは、やっぱりお前腹になんか隠してるんだな。」
ちょっと黒いオーラ見えたし、と続けられ豊臣はわたわたと慌てるしかなかった。
喧嘩ばかりしていると思って甘く見すぎていたようだ。正直に言って計算外だった。
「そ、それでも、僕があなたの弟子になりたいって気持ちは本当です。どうかお願いします。」
豊臣はそう言ってもう一度頭を下げた。
「そこまでさせといて悪いけど、この話なかったことにさせてもらうぜ。」
足利はそれだけ言うと豊臣にくるりと背を向けてすたすたと歩き出した。
「待ってください!せめて理由だけ、」
「第一面倒。もともと自分は弟子だ師匠だな
んていう柄じゃねぇしな。気が向いたら遊んでやるよ。」
結局足利は歩みを止めることはなく、廊下には豊臣が一人ぽつんと残された。
「…仕方ないか。まぁ、保険はなくなっちゃったけど、なんとかなるよね?」
自分でのし上がればいいだけだし、と豊臣はだるそうに立ち上がると服の埃をパンパンと叩いた。
「お腹空いた〜。」
「秀輔、こんなところにいたのか。探したぞ。」
豊臣の後ろ側から声を掛けたのは白銀の髪をした少年だった。
「織田くん、なんでこんなところに?」
「別に何も。早く飯食おうぜ。」
「うん。」
それぞれの昼休みがまた動き出した。